【1月10日 AFP】オーストラリア南部およびニュージーランド沖の海域に生息する、先史時代から生きる魚「ゾウギンザメ」(学名:Callorhinchus milii)は、DNAが何億年もほとんど変化していない「生きた化石」シーラカンスよりも進化速度がさらに遅いとする研究報告が8日、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

 米ワシントン大学医学部(Washington University School of Medicine)などの研究チームが発表した論文によると、ゾウギンザメのゲノム(全遺伝情報)は「シーラカンスを含む他の脊椎動物よりも著しく遅い速度で進化している」という。

 ゾウギンザメは、この俗名の由来であるゾウの鼻のように突き出た頭部の突起で、水深約200メートルの海底をかき回して餌となる甲殻類を探す。厳密にはサメではなく、ギンザメ科の一種だ。約4億5000万年前に硬骨の脊椎動物から分化した軟骨魚類のサメやエイ、ガンギエイなどから、さらに約4億2000万年前に分化した小分類群だ。

 今回の研究では、ゾウギンザメのゲノムとヒトや他の脊椎動物のゲノムとの比較を行い、ゾウギンザメの遺伝情報量は極めて少なく、ヒトの3分の1にも満たないことが明らかになった。

 またゾウギンザメのゲノムの進化速度は、シーラカンスのゲノムより遅いことも分かった。南アフリカ沖で発見された希少種魚のシーラカンスは、生態的地位の獲得に非常に成功し、4億年近くにわたってほとんど変化していない。

 ワシントン大医学部のウェズレイ・ウォーレン(Wesley Warren)准教授(遺伝学)は「われわれは今回の研究で、ヒトを含む硬骨脊椎動物の進化と多様性を理解するために極めて重要とみなされている分化した種の遺伝的青写真を手に入れた」と語る。

 ゾウギンザメのゲノムにより、骨の形成過程に関する洞察が得られる可能性があり、骨粗しょう症の治療に役立つかもしれない。

 またゾウギンザメの免疫系には、さらに大きな秘密が潜んでいるかもしれない。ゾウギンザメの防御機構は原始的だとみなされており、ヒトにみられるようにウイルスや細菌の感染に対抗する免疫細胞は存在しないとされる。それにもかかわらず、ゾウギンザメの免疫系は明らかに強力で、ゾウギンザメの長寿を可能にしている。(c)AFP