【10月28日 AFP】かつて米自動車産業の中心地として栄えたミシガン(Michigan)州デトロイト(Detroit)市。だが、もはやその威光は、メキシコの画家ディエゴ・リベラ(Diego Rivera)が米自動車大手フォード・モーター(Ford Motor)の工場の風景を描いたデトロイト美術館(Detroit Institute of Arts)所蔵のフレスコ画「デトロイトの産業(Detroit Industry)」に見られる程度だ。

 デトロイト市は7月18日、同州連邦破産裁判所に連邦破産法9条の適用を申請。米国史上で財政破綻した最大の自治体となった。破産法の適用については連邦破産裁判所での審理が続いている。破産手続きで債務返済のため一部でも美術館の所蔵品売却が決まった場合、リベラの壁画が公の場から姿を消すこともあり得る。

「所蔵品を売却すれば、美術館は閉鎖になるかもしれない」と、同美術館の最高執行責任者(COO)、アンマリー・エリクソン(Annmarie Erickson)氏は危惧する。

 1885年に開館したデトロイト美術館は、新聞界や自動車業界の有力者たちからの資金援助を通じて、世界有数の美術品を集めてきた。米国で最初にビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)とアンリ・マチス(Henri Matisse)の作品を購入した美術館でもあり、年間約60万人が訪れる。リベラの「デトロイトの産業」はフォードの自動車生産工場がもたらす正と負の側面を見事に描きだした作品だ。

 デトロイトの財政再建を指揮する緊急財務管理者は、美術品を長期間貸し出したり新たな融資の担保にしたりして資金調達したいと表明している。財政破綻で年金を失う恐れがある退職者などの債権者たちが美術品は売却可能な資産と主張することは必至だ。抗議団体は、政治家はピカソよりもまず市民を守るべきだと訴えている。

 一方、最近の調査によると、デトロイト市民の78%が美術品の売却に反対している。しかし、この割合も競売大手クリスティーズ(Christie's)による美術品の査定が完了すれば変わる可能性もある。市の負債総額180億ドル(約1兆7500億ドル)に対し、売却対象の美術品は推定100億~200億ドル(約9700億~1兆9500億円)相当とされている。(c)AFP/Mira Oberman