【10月17日 AFP】フランスで、ロマ民族の15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されたことが分かり、不法移民の取り扱いをめぐって仏政府内部で閣僚が対立する事態となっている。

 発端は今月9日、東部の町ルビエ(Levier)でロマ民族のレオナルダ・ディブラニ(Leonarda Dibrani)さん(15)が学校行事でバス移動中に警察に身柄を拘束されたことだ。この事件は今週になって初めて、就学年齢の子どもの強制退去処分に反対するNGO団体「国境なき教育網(Network for Education without BordersRESF)」によって明らかにされた。

 当日の詳しい状況は不明だが、その場に居合わせた教師の話と内務省の主張はいずれも、レオナルダさんが他の生徒たちの目の前で拘束されたわけではないとの点は一致している。しかしこの教師がRESFを通じて公表したところによれば、他の生徒たちは何が起きているのかを完全に認識しており、ひどいショックを受けているという。

 レオナルダさん本人は次のように当時の様子を説明している。「友達も先生もみんな泣いていました。中には、警察が私を捜していると知って『誰か殺したの』とか『何か盗んだの』とか直接聞いてくる子もいました。バスまでやって来た警察は私に降りるよう言い、それからコソボに帰らなければならないと告げました」

■割れる仏政界、「学校は聖域」と与党左派

 バンサン・ペイヨン(Vincent Peillon)国民教育相は「学校は聖域であるべきだ。われわれは権利と人間性に基づいた指針を保持しなければならない」と主張している。

 これに対しマニュエル・バルス(Manuel Valls)内相は、レオナルダさんとその両親、1歳~17歳のきょうだい5人の強制送還は正しい措置だったと反論する一方、対応に問題がなかったかどうか見直すよう関係各所に命じた。同内相の説明によると、一家の強制送還は既存の手続きに沿ったもので、亡命申請が却下されたためだという。

 与党内の左派勢力から噴出した強い批判を受け、ジャンマルク・エロー(Jean-Marc Ayrault)首相もレオナルダさんの権利が侵害されたことが確認されれば、一家がフランスに戻れるように手配すると約束した。

 一方、野党議員はバルス内相の見解を支持し、強制送還処分が取り消されればフランスが不法移民を歓迎しているとの誤ったメッセージを発信することになると警告している。

■言葉分からず「怖い」

「怖いです。私はアルバニア語が話せません。私の生活はフランスにあるんです。言葉が全く分からないのに、こっちの学校には通いたくない。フランスには自由がありました。ここ(コソボ)には住みたくはないです」。コソボ・ミトロビツァ(Mitrovica)でAFPのインタビューに応じたレオナルダさんは、こう述べた。一家は今、町が用意した仮の住居で暮らしている。

 レオナルダさんの1日前に強制送還された父レシャット(Reshat Dibrani)さん(47)は、一家はロマ民族だったために犠牲となったと主張する。「フランスには、悪い移民がたくさんいる。私たちは何も悪いことはしていない。強制送還されたのはロマだからだ。肌の色が違ったなら、こんな扱いはされなかっただろう」

 フランスでは前月、バルス内相が「国内にいる2万人のロマ民族の大半はフランスに同化するつもりがなく、祖国に強制送還するべきだ」との趣旨の発言をし、物議を醸した。世論調査では仏有権者の4人に3人がこの方針を支持しており、バルス内相の人気は高いが、こうした発言を差別的だと批判する声もある。

 一連の問題についてフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領は一切声明を出しておらず、野党からは政府は混乱に陥っているとの非難が出ている。(c)AFP/Angus MACKINNON