【9月16日 AFP】牛の幹細胞から培養した肉を使った「試験管ビーフバーガー」を発表した英国の科学者たちよりもずっと先端を行くとしてオランダが誇るのは、植物からできた「肉」を売る食材店「ベジタリアンブッチャー(Vegetarian Butcher)」だ。

 先月、英国の研究チームが発表し、ボランティアたちによって試食されたハンバーガーは「フランケンバーガー」とも「食の革命の幕開け」とも称されたが、使われた人工培養牛肉には25万ユーロ(約3300万円)以上もの開発費がかかっている。

 これに対し、オランダ・ハーグ(Hague)の目抜き通りで「ベジタリアンブッチャー」を立ち上げたヤープ・コルトベーグ(Jaap Korteweg)氏は「我々の方がずっと進んでいる。幹細胞からできた肉に対して、絶対的なリードを広げている」と自信満々だ。

 英国の人工牛肉は、生きている牛の筋肉の幹細胞を培養した筋状肉を合成したもの。一方のオランダのベジタリアンミート(菜食食材による代用肉)に必要なのは植物だけだ。

 コルトベーグ氏の店には、ベジタリアンバーガー用のハンバーガーパテから「ミートボール」や「ツナ」サラダまで様々な商品があふれる。秘密の原材料の一つは、大豆ペーストだ。これを特別な加圧機にかけると肉の線維に似た状態になる。オランダ・ワーヘニンゲン大学(Wageningen University)で発明された技術だ。

 原材料は他にも色々ある。「鶏肉」を作るときには大豆のペーストをさらに増やすが、「牛肉」には他の豆類やニンジン、ジャガイモなどを使う。「肉の香り」はハーブ類やスパイスなどを調合して生み出す。試食した来店客やAFP特派員は、鶏肉やツナサラダは「本物」にそっくりで、商品によっては「本物」とかなり違うが味は良いと語った。

 食肉の生産は非常に非効率的で、飼料用穀物を育てるための広大な土地を必要とする。そのため環境に優しく、肉に替わる菜食食材への需要は高まっている。コルトベーグ氏によれば、ベジタリアンバーガーの環境フットプリント(持続可能な生活を送るのに必要な1人当たりの面積)は「本物」のハンバーガーの7分の1以下だ。

 3年前のオープン以来、ベジタリアンブッチャーはスーパーや専門店を中心にオランダ全土の500店で自社製品を販売している。売上は毎年倍増しており、来年には市場シェアの拡大と「本物」の肉よりも価格を安くすることを目指して自社工場を立ち上げたいとコルトベーグ氏はいう。現在の価格は通常の肉よりやや高く、有機食品と同程度だという。

 しかし幹細胞からできた人工培養牛肉の開発者に対し、フランスの牛肉生産農家が憤慨したように、ベジタリアンブッチャーに対しては自国オランダの食肉業界から問題視する声が上がっている。

 オランダ食肉協会(COV)のジョス・ゲッベルス(Jos Goebbels)氏は「すべての消費者に、何を食べるかを選ぶ権利があるのはもちろんだが、我々が問題視しているのは、肉が入っていないことは誰もが知っているのに、彼ら(ベジタリアンブッチャー)が『肉』を特定する用語を使っていることだ。鶏肉とか、ハンバーガーといった呼び方はすべきではなく、何か別の名前にすべきで、消費者をごまかしている」と非難している。ただし同氏は、ベジタリアンミートが鶏肉や牛肉といった食肉産業を脅かすとは考えていない。

 オランダの環境団体「自然と環境(Natuur & Milieu)」は、スーパーでの無料試食を通じ菜食食材を広める活動をしている。オロフ・ファン・デル・ハーグ(Olof van der Gaag)氏は「ベジタリアンフードは言われているよりも比較的容易にできる代用食だと思う。ジェット燃料の代わりを探したり、電気自動車を実際に導入することよりも簡単なオルタナティブだと我々は考えている」という。

 人口1700万人のオランダで国民全員が1週間に1食、肉が入った食事を減らすだけで、車100万台の二酸化炭素排出を削減するに等しい効果があるとハーグ氏は語った。(c)AFP/Nicolas DELAUNAY