【9月6日 AFP】中国山西(Shanxi)省汾西(Fenxi)県で6歳の男児、グオ・ビン(Guo Bin)君が両目をくりぬかれた事件は、人々を震撼(しんかん)させるとともに、同国でも最貧地域に数えられる同県の実態に注目を集めている。

 事件が起きた汾西県は、繁栄する沿岸地域からはほど遠い山岳地帯にある。政府統計によると、汾西の農家の年収はわずか1944元(約3万2000円)。だが、同地域では農業以外に稼げる産業はほとんどない。

 事件では、DNA鑑定の結果、グオ・ビン君の伯母の衣服についていた血液がグオ・ビン君のものと判明したことから、伯母が容疑者とされたが、事件の数日後、伯母は井戸に身を投げて自殺した。事件が起きた当時、伯母は別の場所にいたとの証言もあり、親戚らは一様に伯母は無実だと主張している。また、被害者のグオ・ビン君の証言も矛盾している。

 グオ・ビン君に対しては香港(Hong Kong)の医師が義眼を提供すると申し出ている他、多くの寄付がグオ・ビン君に寄せられている。

■容疑者とされた伯母家族の苦悩

 一方、容疑者とされた伯母の家族の暮らしは一変したと、伯母の夫は涙ながらに語る。夫婦は鶏肉処理業を営んでいたが、昨年に夫が仕事中の事故で負傷してからは妻が主な働き手となっていた。今後は3人の娘を1人で養っていかなければならない。

 中国で小学校は無料だが、地元住民たちは幼稚園への通園費や高校の学費を工面している。

「教育費の問題が一層、大きくのしかかってくる。私には、ほとんど収入がないというのに、あまりに不公平だ」と、この夫は嘆く。

 山岳地帯で土壌も乾燥した汾西県には、農地に適した土地は、ほとんどない。かろうじて飼料用のトウモロコシが栽培できる程度だ。住民は山肌に堀った洞穴式の住居に暮らしている。

■地方で広がる貧困

 中国国家統計局(National Bureau of Statistics)によれば、汾西県は、目覚ましい成長の世紀にありながら、国内人口の9900万人が1日1ドル(約99円)以下で暮らしているという、中国指導部が直面する貧困の問題を体現している場所でもある。

 地方の農村地域などでは、この10年間、大量の住民が都会に移住したため学校の閉鎖が相次いでいる。汾西県も例外ではない。

 教育省によれば、地方での学校数は2000年の44万284校から、2010年には52.1%も減少し21万894校まで落ち込んだ。

 有識者らは、こうした学校の閉鎖が貧困家庭を経済的に苦しめていると指摘する。体の不自由な親の医療費をめぐってグオ・ビン君の両親と伯母が言い争っていたとの報道もある。

 中国政府は5年間かけて、地方を中心に大規模な保険制度を導入してきた。政府は農村人口の99%が保険制度で保護されていると主張する。

 だが、汾西県の住民らは、政府の政策も貧困から抜け出すには、ほとんど効果がないと話す。子どものいる家族は学校がないために村を去り、人がいなくなった家屋や土地は荒れていくだけだという。

 ある住民は次のように語った。「政府の政策は素晴らしいが、われわれのもとにお金は届かない。いつも言葉だけだ」(c)AFP/Tom HANCOCK