【8月26日 AFP】スイスのチューリヒ(Zurich)に26日、売春専用のドライブイン、通称「セックスボックス」が正式オープンする。売買春の場を市中心部から移して適切に管理するのが設置の目的だが、市民、政治家、性産業従事者たちの間で意見は分かれている。

【関連記事】世界一有名な赤線地区の「おばあちゃん」売春婦姉妹、オランダ

 チューリヒ西部の旧工業地域に作られたセックスボックスは、市中心部の赤線地区ジールカイ(Sihlquai)のイメージを変えるべく、市当局がドイツの取り組みを参考に導入した。ジールカイでは毎晩のように売春婦と客が人目もはばからず交渉しており、近隣住民が不満を募らせていた。

 性産業従事者の福利を担当する市社会福祉課のミハエル・ヘルツィク(Michael Herzig)氏は、「売春も基本的には1つの業種であって、禁止できない。そこで、性産業従事者にも住民にも利益となる方法で管理しようとしている」と話した。

■街角に半裸女性、ジールカイ地区の現状

 AFP記者は23日、実際にジールカイ地区を訪れてみた。ほとんど半裸の女性たちが街角のあちこちに立っていた。下着姿と大差ない格好で、通り掛かった車に向かって挑発的に踊って見せる女性もいた。

 真っ赤な下着を身につけた背の高い金髪の女性が売春婦たちを仕切り、客となりそうな男たちに引き合わせている。並んだ売春婦の中から好みの相手を選ぼうとする客は、ほぼ5分に1人の割合でやってきた。

 まだ午後9時にもならない時間の話だ。

 地元当局は新設のセックスボックスが成功する保証はないことを認識しつつ、売春婦たちに設備を実際に見に来るよう熱心に勧めている。

■売春婦に安全なセックスボックス、反応は…

 セックスボックスは高いフェンスに囲まれ、外からは見えにくい。営業時間と赤い傘のマークが記された小さな標識だけが、そこが売春公認所であることを示している。フェンスの中には進入路があり、客はここで車に乗ったまま売春婦を選び、価格交渉から支払いまでを済ませる。

 利用規則は厳格だ。客は18歳以上で、1人で車に乗って来なければならない。使用後のコンドームは直ちに支給されたごみ入れに捨てるよう求められる。

 セックスボックスを支持する売春婦支援団体「フローラドーラ(Flora Dora)」のウルスラ・コッハ(Ursula Kocher)代表は、市内での売春ではよく売春婦が近くの森や郊外に連れ出され、身に危険が及ぶこともしばしばあったと指摘。セックスボックスには常駐警備員に直通の警報ボタンがあり、売春婦たちが安全な環境で仕事ができると評価している。

 ただ、23日のタブロイド紙「20minuten」によれば、売春婦の中にはセックスボックスを「試してみたい」という意見もあるものの、ルールの厳しさから客が敬遠するのではと心配する声もある。セックスボックスの正式オープンと同時に市中心部での売春は禁止されるが、ならば北西部の郊外に活動拠点を移すだけだという売春婦も少なくない。

■市民の見方は二分

 ドライブイン方式の売春公認所の導入案は、2012年3月に住民投票が行われ、賛成52.6%で承認された。政界でも幅広い支持を得ており、反対しているのはスイス国民党(Swiss People's PartySVP)だけだ。設置費用は210万スイスフラン(約2億2400万円)で、運営費は年間70万スイスフラン(約7500万円)程度と見込まれている。

 税金を使っているため、24日には市民を招いてセックスボックス見学会が開かれた。興味本位から見学会に参加したというクラウディアさん(30)は、「どちらとも言い難い」と感想を口にした。「良い面もあるとは思う。安全面や、コンドームの管理、衛生的なところなどはいい。けれど、売春そのものは疑問視せざるを得ない。好きで売春しているわけではない女性は多い」

 一方、娘がセックスボックスの警備員だというトゥルーディさん(74)は全く心を動かされなかったようだ。「売春婦たちが代償を支払っているのは、それが彼女たちの仕事だからだ。私たちには関係ない。税金を使ってやることではない。理解できない」とAFPの取材に不満を述べた。(c)AFP/Nathalie OLOF-ORS