【8月26日 AFP】魅惑的で官能的なタンゴの世界に変革の時が訪れ始めている──。タンゴ発祥の地アルゼンチンで開催されている今年の世界選手権には、大会史上初めて同性のペアが参加している。

 大会が開催されているブエノスアイレス(Buenos Aires)の会場で、フアン・パブロ・ラミレス(Juan Pablo Ramirez)さん(34)とダニエル・アロヨ(Daniel Arroyo)さん(18)の男性ペアが1940年代のクラシックナンバーに乗せたダンスを披露すると、会場からは惜しみない盛大な拍手と声援が送られた。

 アルゼンチン出身のプロのダンサーであるラミレスさんとアロヨさんのペアは、今大会に出場している男性3組、女性1組の同性ペアのうちの1組だ。ラミレスさんは「私たちは何も伝統や習慣に逆らおうとしているわけではありません。ただ社会には受け入れる準備がまだできていないから、何度も歩みを止めるようなゆっくりとした変化となっています」と付け加えた。

 同性ペアの出場者たちは、同性愛者の枠にとらわれず、もっと広いタンゴ世界で優れたパフォーマンスを披露したいと日夜努力を積み重ねている。「私たちの目標は、人々に『なんて素晴らしいダンスだろう』と言わせること」とラミレスさんは言う。

■タンゴの世界に生まれた「許容」

 音楽家であり作曲家で、この大会のディレクターを務めるグスタボ・モッジさんは、「同性ペアがこの大会に参加することは公式に禁止されていたわけではない。ただ誰も出場しようとしなかっただけ」と語る。今年の大会に同性ペアが参加したことについては、タンゴやミロンガの世界に「許容」が生まれ、間口が生じたのだろうと説明した。

 同性ペアの初めての大会出場は、ジェンダーの問題に対する同国の寛大な考え方がさらに浸透していることを示す一つの象徴だといえる。

■タンゴは「情熱」と「夢」

 音楽の曲調が再び高まり、各ペアが慎重にステップを踏む中、マレーネ・ヘイマン(Marlene Heyman)さん(31)とルチア・クリステ(Lucia Christe)さん(32)の女性ペアには観客から大きな声援が送られた。

 普段はステージ用の靴の販売員をしているヘイマンさんとバイオリンの先生であるクリステさんは共に同性愛者ではない。

「誰も私たちにダンスをしようと声をかけてくれなかったの。ワインを飲んで、座りっぱなしになるのが嫌だったから、一緒に踊って楽しみましょうって。そしたら気に入ってしまったの」とヘイマンさんは話す。

 誰がリードするのかといった問題を解決した後は、他のダンサーたちから「何て頭がいいんだ」とか「何て勇気があるの」と声を掛けられるようになったという2人。ただヘイマンさんは「他人に見られることが重要なのではなく、私たちが楽しい時間を過ごしているってことが一番大切」と話す。

 近くでは、看護師のMarcelo Siufeさん(41)がパートナーでプロのダンサーであるManuel Mioniさん(26)がステージの脇で待っている。

 ダンスには「性」の違いなどないとSiufeさんは言う。「以前は男同士でも踊っていたし、私も母や女兄弟とも踊ることができた。情熱と夢こそがタンゴなんだ」

(c)AFP