【8月20日 AFP】エジプトでは前例のなかった自由ないくつかの選挙でイスラム主義組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」系の政党が躍進したのはわずか2年前。しかし今、多くの国民は同胞団の支持者を「テロリスト」と呼んでいる。

 軍出身でない初のエジプト大統領となったムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)前大統領を誕生させた栄華の後、ムスリム同胞団は没落の一途をたどっている。モルシ前大統領が解任された7月3日以降、暫定政権や軍当局の声明、国営テレビの報道にあおられる形で、国民の間では反同胞団の機運が高まっている。

 8月14日には治安部隊がモルシ前大統領を支持するデモ隊を強制排除。死者が600人近くに上る状況でも世論が大きく変わることはなく、多くの国民は治安部隊の介入を歓迎している。治安部隊は17日、首都カイロ(Cairo)市内のモスクに立てこもっていたモルシ氏支持者をにらみ合いの末に排除した。群衆が歓声を上げ、鉄の棒などでモルシ氏支持者をたたく場面もみられた。

 活動家のアハメド・ザハラン(Ahmed Zahran)さんは、ムスリム同胞団に対する行き過ぎた実力行使について「反対しているのは国民のごく一部。同胞団の一部が武装していることを理由に国民の大多数がこれを支持している」と話す。

 ザハランさんは2011年、当時のホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)政権の打倒につながった反体制デモに参加し、12年5月の大統領選挙ではモルシ氏に投票した。ザハランさんはムスリム同胞団の支持者ではないが、同胞団にチャンスを与え、ムバラク政権時代に首相を務めたアハメド・シャフィク(Ahmed Shafiq)候補を権力の座につかせないことを強く望んでいたという。

■昨年11月の憲法令が転機に

「決選投票におけるモルシ氏の勝利は、ムスリム同胞団と、(11年の)革命勢力とその支持者らとの協調があってこそ成し遂げられたもの」とザハランさん。しかしその関係は急速に緊迫の度を強め、モルシ氏が大統領の権限を強化する新たな憲法令を出した昨年11月、協調は完全に壊れた。ザハランさんは「憲法令がゲームをすっかり変えてしまった」と話した。

 新憲法案は国民投票で64%の賛成を集めて承認されたが、投票率はわずか33%だった。新憲法案の承認で、それまでムスリム同胞団にチャンスを与えることに前向きだったキリスト教徒やリベラル派、政治活動家は神経をとがらせた。

 コラムニストのファフミー・フウィーディー(Fahmy Howeidy)さんは、ムスリム同胞団の没落の原因は同胞団自身にあると語り、あまりに速く権力の座に就いたことも没落の一因だと指摘する。

「同胞団を率いるには支持者にだけ話をしていればいい。しかし国を率いるには反対派にも話をしなければならない。(ムスリム同胞団には)それがなかった」(フウィーディーさん)

 軍当局は、ムバラク政権崩壊後に国を暫定統治した16か月間で国民の信頼を失った。だが国民の多くはもう軍を許した様子で、モルシ氏解任は軍事クーデターでなく、単に国民の要求に応じたものだと主張している。ホテルのドアマンをするアリ・ハッサン(Ali Hassan)さんはモルシ氏に投票したことを後悔していると述べ、今は「ムスリム同胞団が排除され、復活しないことを願うばかりだ」と話した。(c)AFP/Mohamad Ali Harissi