【8月14日 AFP】(記事更新)第14回世界陸上モスクワ大会(14th IAAF World Championships in Athletics Moscow)の女子棒高跳びを制し、母国ロシアで自身3度目となる大会金メダルを獲得したエレーナ・イシンバエワ(Yelena Isinbayeva)は、有力選手が集まった大会で、自らの地位を揺るぎないものとした。

 五輪で2度の金メダルに輝いている31歳のイシンバエワは、2008年の北京五輪以来となる世界大会のタイトルを獲得し、自身の力がまだ衰えていないことを証明した。

 女子棒高跳び界に革命を起こしたイシンバエワは、北京五輪までは圧倒的な強さを見せ、世界記録はこれまでに28回(屋外15回、室内13回)更新していたが、2011年に行われた第13回世界陸上大邱大会(13th IAAF World Championships in Athletics Daegu)では6位に終わった。

 それでも、母国ロシアのルジニキ・スタジアム(Luzhniki Stadium)に詰めかけたファンが勝利を期待するのは、イシンバエワをおいて他にいなかった。

 2009年に5メートル06という圧倒的な世界新記録を達成しながらも、2012年のロンドン五輪では銅メダルとなったイシンバエワは、今回の決勝では4メートル65からスタートした。

 今大会でここまでで最高の観衆から大歓声を受けたイシンバエワは、2度の試技でこの高さをクリアしたが、続く4メートル75は冷静に成功した。すると、4メートル55から競技を開始したロンドン五輪金メダリストのジェニファー・サー(Jennifer Suhr)にプレッシャーが一気にのしかかった。

 イシンバエワの直後の試技とあって、会場の敵対意識は明白だったが、サーはバーをややかすめたように見えながらも4メートル75を力強くクリアした。

 この後さらに、ロンドン五輪4位のジルケ・スピーゲルバーグ(Silke Spiegelburg、ドイツ)もこの高さを悠々と成功。直後にキューバのヤリスレイ・シルバ(Yarisley Silva)もこれに続いた。

 その一方で、前回大会優勝のファビアナ・ミュラー(Fabiana Murer、ブラジル)とロシアのアナスタシア・サフチェンコ(Anastasia Savchenko)は、3回の試技でこの高さを越えられずに脱落した。

 イシンバエワは続く4メートル82で、1回目は失敗に終わったものの2回目で成功し、その直後にサーも成功した。スピーゲルバーグは失敗に終わり、シルバはこの高さをクリアした。

 バーの高さが4メートル89に上がり、イシンバエワが期待に応える跳躍を披露すると、観客は男子100メートルのスター、ウサイン・ボルト(Usain Bolt、ジャマイカ)が同種目を制した際にもなかったほどの歓声で応えた。

 その直後に登場し、この高さに苦しんでいるように見えたサーの失敗に、観客は今度は叫び声を上げて応えた。サーが2回目と3回目の試技も失敗し残るは2人となると、テレビカメラはパンし、笑顔で親指を立てるイシンバエワをとらえた。

 結局シルバはこの高さをクリアできず、優勝はイシンバエワ、2位は試技数の差でサーのものとなった。

 バーの高さが、イシンバエワが持つ世界記録よりも1センチ高い5メートル07へ上がると、元男子棒高跳びの王者で、イシンバエワの憧れであるセルゲイ・ブブカ(Sergei Bubka)氏も思わずVIP席を離れて彼女の跳躍を見守った。

 ウクライナ出身で、世界陸上6連覇も達成したブブカ氏は、若い頃は体操選手だったイシンバエワのキャリアを長く追っており、今週に入ってからは有終の美をかざってもらいたいと語っていた。

 5メートル07の2回目、勢いよく助走をつけて跳んだイシンバエワだったが、体は反転させたものの左膝がバーに触れて惜しくも失敗となった。

 結局3回目の跳躍も失敗に終わったが、それでも会場の熱狂はその後も治まることはなく、イシンバエワはロシアの国旗をまとい、コーチのエフゲニー・トロティモフ(Evgeniy Trofimov)氏や大会マスコットと抱擁を交わすと、バックストレートで体操の動きを披露し、熱烈な歓声を送る観客をさらに喜ばせた。(c)AFP/Luke Phillips