【8月13日 AFP】ネアンデルタール人が初期の現生人類ホモ・サピエンスよりも進んだ道具を持っていたことの初の証拠となり得る、皮革加工用の精巧な骨角器がフランスの洞窟で見つかった。研究者らが12日、発表した。

 米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に12日発表された研究によると、フランス南西部で近接するペシュ・ド・ラゼ(Pech de l'Azé)洞窟とアブリ・ペイロニ(Abri Peyrony)洞窟から、皮をなめすために使われた骨角器の破片4個が見つかった。シカの肋骨(ろっこつ)からできたなめらかなへりと丸い両端を持つ道具で、前後に動かして皮をなめし、しなやかさや光沢、耐水性などを与える。研究チームによれば、これと似た道具を現代の皮革加工職人も使うという。

 放射性炭素年代測定では約5万年前のものと判定されており、欧州で発見された骨角器としてはこれまでで最も古く、現生人類がネアンデルタール人に置き換わった約4万年前よりも前に使われていたことになる。

 ネアンデルタール人が石器を使うことはよく知られている。一方、石器よりも進んだ骨角器の使用は、現生人類によってネアンデルタール人にもたらされたと多くの考古学者たちは考えてきた。今回の発見はまだ決定的とはいえないが、ネアンデルタール人が自分たちで骨角器を作り出した可能性を示すもので、ネアンデルタール人と現生人類のどちらが皮革加工のために、いつごろから骨角器を使用していたのかについて、これまでとは違う見解が導かれる可能性がある。

 これまでにもネアンデルタール人の生息した場所から骨角器は見つかっているが、へら状の削器や端が鋸歯状のもの、手斧などだった。しかし、論文の主著者で独マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)のシャノン・マクファーロン(Shannon McPherron)氏は「ネアンデルタール人たちが骨の柔軟性を生かし、石器ではできなかった新しい形状を作っていた例だ」と述べている。

 現生人類が考えられてきたよりも早く欧州に到達し、ネアンデルタール人にこの技術を伝授した可能性も排除できないが、ネアンデルタール人以外の文化が存在していたことを示す道具などは見つかっていない。

 論文の共著者であるオランダ・ライデン大学(Leiden University)のマリー・ソレッシ(Marie Soressi)氏は、「ネアンデルタール人たちがこうした種類の骨角器を自分たちで作り出したのならば、現生人類はネアンデルタール人たちからその技術を獲得した可能性もある。現生人類が欧州に到達したときに持っていたのは先のとがった骨角器だけで、その後に皮をなめすための道具を作り始めたとすれば、ネアンデルタール人から私たちの直接の祖先への伝授を示す初めての証拠となり得る」と語っている。

 ネアンデルタール人は最長30万年間にわたって現在の欧州、中央アジア、中東などに生息していた。約4万年前に姿を消滅した理由については様々な説がある。(c)AFP