【8月1日 AFP】インド北東部の山奥にある村――住宅には雲が立ちこめ、雨音を遮るために草を使った防音対策が施されている。ここが「世界一湿った場所」であることを来訪者に知らせるのは、場にふさわしくさびた看板だ。

 妙な話だが、メガラヤ(Meghalaya)州の小さな集落、マウシンラム(Mawsynram)に生まれたときから暮らしている住民は、自分たちの村が年間平均降水量1万1873ミリのギネス世界記録(Guinness World Records)を保持していることをまず知らない。

「本当に、ここが世界一湿った場所なのかい。知らなかったよ」と、ビニ・キンターさんはAFPの取材に語る。キンターさんは自称「100歳近い」はずという。

「幼いころは雨が恐ろしかった。暮らしも大変だった。今ではみんな気楽なものさ」。キンターさんは緑色のタータン模様のショールを肩にしっかりと巻き付けて語った。

 わずか30年ほど前、マウシンラムには舗装された道路がなく、水道も電気もなかった。貧困の中で暮らす住民にとって、6か月に及ぶモンスーンの時期は耐えがたい経験だった。

 今でも地滑りは頻繁に発生し、山間の集落と外部をつなぐ唯一の舗装路が通行止めになる。泥を固めて作った小屋には雨水がしみこんでくる。電気の使える住宅は増えたが、停電も日常茶飯事だ。

■6か月間の室内暮らし

 冬になると、マウシンラムの住民は何か月もかけて迫りくる雨期の準備をする。

 屋根の修繕を行い、薪割りをし、穀類を蓄える。5~7月の最も雨の激しい時期に、買い物に出かける者はほとんどいないからだ。

 女性たちは雨期に「ナップ(Knup)」と呼ばれるかさを作る。竹やビニールなどを使った、膝元まで雨をしのげる大型のかさだ。

 プレリアン・プダさん(70)は、冬からモンスーンの季節の間、竹かごや竹ほうき、ナップを作り続ける。村に来る行商人がそれらを買い付け、各地で販売するという。

「激しい雨は嫌い。一日中屋内にいるのは退屈だ。イライラする」とプダさんはAFPに語った。

 活気のなくなったマウシンラムで、住民の多くは、世界記録をもたらしたモンスーンによる雨をゆううつに感じている。

「日光がないから、日中でも、電気がなければ室内はとても暗い」と、パジャマ姿の村長ムーンスター・マーバニアング氏は語る。

 歴史家によれば、過去、英国の兵士と宣教師がこの地域に駐留したため、この地域の子どもたちの名前に適当な英単語や歴史的偉人の名前がその意味を知られないままに使われているという。

 サンスクリット語で「雲のすみか」を意味する州にふさわしく、マウシンラムの住宅に雲が流れ込むことは珍しくない。雲が去った後には、家具がじっとりと湿っている。

 屋根を覆う草は、雨の音を遮る意味がある。だがたいてい、屋根の草は激しい降雨ではがれ落ちる。

「モンスーンの間は大きな声で話さないといけない!」とマーバニアング村長は、いたずらっぽい目を輝かせながら大声で語った。

 ようやくモンスーンが終わっても、それを祝うパーティーは開かれない。雨期の後は修繕の季節がくるだけだという。

「雨の終わりを記念した祝いやお祭りは行わない。単に外で服を乾かし始めるだけだ」と村長は語り、歯の欠けた笑顔を見せた。(c)AFP/Ammu Kannampilly