【7月22日 AFP】空から見下ろした中東ヨルダンの砂漠の真っただ中に、整然と広がる移動式住宅やテントの「街並み」──内戦状態のシリアから逃れてきた人々が暮らすザータリ難民キャンプ(Camp Zaatari)は、急速に小さな都市と化しつつある。

 この難民キャンプが開設されたのは、わずか1年前。何か月も続く内戦に傷つき、命からがら祖国を脱出してきた大量のシリア難民を保護するという悪夢のような使命に、ヨルダンは直面した。

 現在、このキャンプにはよりどころを無くした11万5000人が暮らす。夜になれば国境の向こう側から砲弾の音が響き渡るが、それでもシリア難民たちはくじけることなく、再び立ち上がって自活していく決意を固めている。

■「楽しきわが家」再生へ

 難民テントの多くは、プラスチックとアルミニウムでできたコンテナ住宅に置き換えられつつある。設置費用は1戸当たり2500ドル(約25万円)。既に1万6500戸が完成し、近く3万戸に達する見込みだ。「まさしく『楽しきわが家(Home! Sweet Home!)』です」。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の現地責任者、キリアン・クラインシュミット(Kilian Kleinschmidt)氏は18日、現地視察に訪れたジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官を上空から案内しながら、英国民謡の題名を口にした。その言葉に皮肉な響きはみじんもなかった。

 クラインシュミット氏が語ったのは、ありのままの事実だ。28か月に及んでいるシリア内戦に全く終わりが見えない中、難民キャンプではあきらめて長引くキャンプ生活を受け入れ、崩壊した生活を自ら立て直そうとする住民が増えているのだ。

■根っからの商人たちが築いた新たな暮らし

 ザータリ難民キャンプに暮らす人々の多くは、ヨルダンと国境を接するシリア南部ダルアー(Daraa)県から逃れてきた。シリア軍と反体制派の武力衝突へと激化していったバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権に対する2011年3月の蜂起の発端となった地だ。 「ダルアーの人々は、根っからの商人だ。ほとんど何でも取り引きするので驚かされる」と、クラインシュミット氏は報道陣に説明した。

 仮設住宅の前庭は泥よけのためにセメントで固められ、小さいながらも「家の象徴」として噴水まで造ってある家も見られる。商才に長けた難民たちは、キャンプの電気網を「拝借」してキャンプ内のわずかな舗装道路に立ち並ぶ約3000軒の店舗や、580軒の料理店や屋台に電気を引いており、クラインシュミット氏の下に届く電気代は毎月50万ドル(約5000万円)に上る。

 これらの通りはパリの大通りにちなんで「シャンゼリゼ」と呼ばれている。難民たちはここで喫茶や買い物を楽しみつつ、仮設住宅に付けるエアコンの値引き交渉さえしている。仮設住宅の多くには既に衛星放送用のパラボラアンテナが取り付けられている。タクシーも10台あり、高値を吹っかけては人々を乗せてキャンプ内を走り回っている。

 取り引きに使われる現金は、難民が持参してきたものもあるが、それよりも湾岸諸国か欧米で働く親戚からの送金が多い。

 キャンプ内で仕事を探して回る人たちも多く、その中には子供たちの姿もある。闇取引が問題になっており、持ち物は何でも売りに出される。コンテナ住宅でさえ「また貸し」されたり、転売されたりと、UNHCRが許可していない方法で使用されている。 「街」には病院が3つ、学校も数か所ある。食料配給所は本部の他にパンのみを配るセンターもあり、1日に計5000個のパンを配給している。サッカー場や、滑り台やブランコのある公園も合わせて5か所ある。「約6万人いる子どもたちを飽きさせないことが大事」だとクラインシュミット氏は言う。だが、学校に通うべき年齢の子ども3万人のうち、授業を再開できているのは5000人だけだ。

■難民キャンプではなく「一時的な街」

 キャンプ開設当初の数か月は、世界から見放されたと絶望し憤った難民たちが支援職員らに石を投げつけることも少なくなかった。現在も緊迫感は残るが、新たな理解が広がっていると思うとクラインシュミット氏は語る。「私が管理しているのは難民キャンプではなく、一時的な街だ。だから、ここは落ち着きつつある。私たちは対話を始め、将来の展望を描き始めている。完全な絶望から人々を脱け出させる手助けもできている」

 しかし、この考えは、既に人口のかなりの部分をパレスチナ難民が占めているヨルダン政府の方針とはそぐわない。ヨルダンのナーセル・ジュデ(Nasser Judeh)外相は「わが国としては、キャンプが閉鎖され、全ての難民がそれぞれの自宅や暮らしに戻ることを祝う日を常に待ち望んでいる」と述べている。  

 ザータリ難民キャンプだけでも、1日当たりの運営費は約100万ドル(約1億円)に上る。(c)AFP/Jo Biddle