【7月22日 AFP】多くの米国人と同様に、人生の大半を銃と共に暮らしてきたトラビス・レロル(Travis Lerol)さん(31)──だが、ワシントンD.C.(Washington D.C.)郊外にある自宅地下室で制作した単発式の拳銃「リベレーター(Liberator)」は、これまで所有してきた銃とは一線を画しているという。3Dプリンターで制作した銃は、武器として何かが足りないのだ。

「200回トライして、ちゃんと発射できたのは1発だけ」と、ソフトウェア技術者のレロルさんは言う。どうやら「小さなくぎ状」部品の具合が良くないようで、3Dプリンターでリベレーターを作った人たちは一様に何らかの問題を経験していると話す。

 だが、遊び感覚で3Dプリンター銃を作っているレロルさんはリベレーターに実用性は求めていない。「(実用には)もっと、ちゃんとした銃は持っている。楽しみとちょっとした挑戦心でやっているプロジェクトなんだ」

 第2次世界大戦中に仏レジスタンス運動を支援するために米軍が投入した単発式の拳銃にちなみ命名されたリベレーターは、世界で初めて3Dプリンターで制作可能となった銃器。外観はまるでレゴブロックのおもちゃ銃のようだ。

 3Dプリンターで作る銃器のオープンソース開発を推進する米テキサス(Texas)州の非営利団体「ディフェンス・ディストリビューテッド(Defense Distributed)」が今年初めに公開したリベレーター制作のための無料ファイルは、すでに10万回以上ダウンロードされている。

 こうした状況を危惧した米国務省は5月、ディフェンス・ディストリビューテッドに対しリベレーター制作用ファイルの公開を中止するよう命じた。だが、すでにリベレーター用のファイルはパイレート・ベイ(Pirate Bay)などのファイル共有サイトで広く出回っていた。

■米国では規制に向けた動き

 ニューヨーク(New York)州やカリフォルニア(California)州の議員らは、3Dプリンター銃の非合法化に向けて動いており、金属探知機が検知できない銃器を禁じる法案を下院の司法委員会に提出している。

 米国外ではオーストラリア・ニューサウスウェールズ(New South Wales)州の警察が3Dプリンターを使ってリベレーターの制作に成功した。要した時間は27時間で、かかった費用も2000ドル(約20万円)以下だった。犯罪者が同様の手段で銃を制作したケースを想定したもので、3Dプリンターの銃制作、販売、所持は全て取り締まりの対象になるという。

 カナダでもトロント大学(University of Toronto)の研究チームが3Dプリンターでリベレーター制作に成功したと、カナダ紙トロント・スター(Toronto Star)が伝えている。この銃は銃規制法に違反しないようデザインを変えてあるという。

 米国には3億1500万人の人口に相当する数の銃(推計3億丁)があふれ、毎年3万人以上が銃絡みの事故や犯罪により死亡しているが、米国憲法は「武器を保有、携帯する権利」を保障している。

 かつてサマーキャンプで射撃の講師を務めた経験もあるレロルさんは、拳銃2丁、散弾銃、AR-15半自動ライフル銃に加え、3Dプリンター「Cubify」で制作したリベレーター2丁を所有している。「Cubify」の価格は1300ドル(約13万円)で、高めのラップトップPCとほぼ同じ値段で購入できる。

 レロルさんのちらかった地下室に鎮座する3Dプリンターは、USBメモリからCADファイルを読み込み、熱可塑性プラスチックを吹き付けて、まるで魔法のように拳銃の小さな部品を次々と静かに形成していく。

 レロルさんが、リベレーターの試し撃ちにメリーランド(Maryland)の射撃場を訪れると、しばしば、いぶかしげな目で見られるという。だが、自家製の拳銃に向けられる恐怖や嫌悪に、レロルさんが屈することはない。「人間は新しい技術に対して不安になりがちだ。そして新しい技術を完全に理解もしていないから、だから皆、悪い影響があるのではないかと心配し始める」

 レロルさんはまた、リベレーターが犯罪に使われることはないとみている。「他にも多くの銃が出回っているし、それにもっと優れた性能を持っているしね」

(c)AFP/Robert MACPHERSON