【7月14日 AFP】スーダン・ダルフール(Darfur)地方で、都市部の治安悪化により、貧困層のみならず富裕層の生活も脅かされる事態となっている。

 スーダン第2の都市である南ダルフール(South Darfur)州の州都ニャラ(Nyala)では3日~7日、市内で戦闘が発生し、暴動で市場が略奪・放火され、約20の店舗が破壊された。

 この騒動で市内の学校では無料の給食提供が停止され、定職についていないオマル・ハッサン(Omar Hassan)さんは2人の子どもの昼食代、1日当たり4スーダンポンド(約90円)の工面に苦慮している。「1か月で120スーダンポンド(約2700円)にもなるんだ」

 一方、衣料品卸売業を営むフセイン・モハメド(Hussein Mohammed)さんも、これからどうやって家族を養っていくか悩んでいる。「全部失ってしまったよ」。市場の暴動で、推定15万スーダンポンド(約340万円)相当の在庫が全滅してしまったのだ。

 貧困が深刻なダルフールでは、暴動被害に遭ったマルジャ(Al Malja)市場に店を持つモハメドさんら商人たちは、エリート層の一員だった。しかし、そんな彼らも今は全てを失ってしまった。灰と化した市場で、店主たちは自分の店があった場所に座り込み、互いに同情し合っていた。

■州都の戦闘、原因は治安部隊の内紛

 国営メディアが伝えた州当局の説明によれば、約30人が死傷した今回のニャラ市内での戦闘の原因は、治安部隊内部の「意見の相違」だったという。

 死者の中には、事務所にロケット弾とみられる流れ弾が着弾した国際援助団体「ワールド・ビジョン(World Vision)」の現地スタッフ2人も含まれている。国連世界食糧計画(WFP)によるとワールド・ビジョンは南ダルフール州の提携NGOの1つで、治安悪化を受けて児童3万9000人を含む40万人への食料支援が中断されることになるという。

 ニャラ市での戦闘は、治安部隊が地元で有名な無法者1人を殺害したとされる事件がきっかけで始まった。殺害された人物は、治安部隊「中央警察予備隊(Central Reserve Police)」に所属していた。

 暴動発生後、外国通信社として最初に現地入りしたAFP記者に対し、衣料品小売店の店主は次のように経緯を語った。「銃声が聞こえたので皆、店を閉めて急いで帰宅した。午後7時ごろに仲間から、武装した男たちがうちの店に侵入していると電話があった」

 この店主は様子を見に市場に戻ったが、男たちの手に武器があるのを見て家に引き返した。翌朝、市場へ行くと、2つの店舗はいずれも壁しか残っていなかった。被害総額は約12万5000スーダンポンド(約280万円)に上るという。

■背景に政府系民兵組織の影、無力な警察

 ダルフールで活動する中央警察予備隊の隊員たちは、2003年にアラブ系が支配するスーダン政府に非アラブ系武装勢力が反旗を翻したダルフール紛争で、反政府勢力を支持しているとみなした少数民族に対して数々の残虐行為を行い、世界を震撼(しんかん)させた民兵組織「ジャンジャウィード(Janjaweed)」の元構成員だ。ジャンジャウィードはスーダン政府の支援を受けていた。

 ダルフールの治安を脅かす問題の内訳ではこのところ、部族間の抗争や誘拐、自動車強奪などの犯罪が増加傾向にあり、その多くで、政府とつながりのある民兵組織や治安部隊の関与が疑われている。

 ダルフール地方を統括する「ダルフール地域機構(Darfur Regional Authority)」のエルティガニ・シーシ(Eltigani Seisi)議長は6月、部族系民兵組織の暴力行為に対して治安当局が「力を誇示する」必要があると述べた。

 だが、少なくともマルジャ市場の略奪では、地元警察には武装集団に対抗する力はないということが証明された。ある店主の証言によれば、戦闘が激化すると市場を警備していた警察官らは撤退してしまい、最寄りの警察署も放火されたという。(c)AFP