【7月5日 AFP】王や女王、法王といった位には従来「引退」などないものだったが、ここ数か月、かつてはあまり見ることのなかった「退位」が相次いでおり、死ぬまで働くより身を引くことを選ぶ君主が増えているようだ。

 4日、ベルギー国王アルベール2世(King Albert II、79)が退位する意向を表明した。カタールのハマド・ビン・ハリファ・サーニ(Hamad bin Khalifa al-Thani)首長(61)も前週、皇太子に権限を譲渡している。アラブ世界で国家元首が自ら権力を譲渡するのは初めてだった。

 ベルギーの政治評論家パスカル・デルウイット(Pascal Delwit)氏は、「ある職務についてわれわれは、死をもって終了するものと考えていたが、最近は『退位は可能』というより現代的な論理が出てきたようだ」とテレビ局RTL-TVIで述べた。

 4月のオランダのベアトリックス女王(Queen Beatrix)の退位は、全く予期しなかった驚きではなかった。ベアトリックス女王の母および祖母も、自ら退位していたからだ。

 しかし同4月には、ローマ法王ベネディクト16世(Pope Benedict XVI)も退位しており、これには全世界が驚かされた。法王は選出されて就く位だが、過去600年間、自ら退位したローマ法王はいなかった。いわゆる「現代性」を支持するかのごとく、ベネディクト16世はその地位から身を引いた。「今日の世界では、多くの急速な変化がある。信仰に生きることと深く関わる問いによって揺さぶられることが多い」と述べた前法王は、職務を全うする気力も体力も尽きたと語った。

 パーキンソン病に苦しみながら法王としてとどまるも、一方ではカトリック教会司祭らによる児童の性的虐待や腐敗などのスキャンダルによってバチカン(ローマ法王庁、Vatican)内部から、その指導力を批判されるに至った前任者の故ヨハネ・パウロ2世(John Paul II)とは対照的だ。

   「この15~20年間で君主制は変化しており、最近では統治者自身の人気に頼るようになっている」とオランダ・ライデン大学(Leiden University)の歴史学教授ウィレム・オッターシュペーア(Willem Otterspeer)氏は指摘する。「こうした現状を鑑みるに、最後までしがみついて悪い評判を招くよりも、適切な時期に引退することが好ましい」

 しかし退くことについて全員が前向きというわけではない。スペインのフアン・カルロス1世(King Juan Carlos)は度重なる病気や王族のスキャンダルにもかかわらず、退位するという選択肢を除外してきた。近いうちに息子のフェリペ皇太子(Prince Felipe)に譲位する見込みはないと専門家らはみているが、この数か月で、フェリペ皇太子の王室公務での役割は増している。そのため、経済危機にある自国において、国王が果たすべき務めを放棄しているとの見方もあるようだ。

 英国のエリザベス女王(Queen Elizabeth、87)も、息子のチャールズ皇太子(Prince Charles、64)に譲位する気配は皆無だ。命ある限り統治するとの誓いを貫くものとみられる。即位から60年が経過した「エリザベス(女王)の態度についてオッターシュペーア氏は、「明らかに別の時代のもの」と指摘した。

 北欧では73歳の女王マルグレーテII世(Queen Margrethe II)が死ぬまで退位しない意向を表明している他、スウェーデンやノルウェー国王にも引退の動きはない。(c)AFP/Nicolas DELAUNAY