【6月3日 AFP】ドイツでは、政府が子どもに母親の身元を知る権利を保障する新法案を推進する中、「赤ちゃんポスト」をめぐる議論が再燃している。

■ベルリンの「赤ちゃんポスト」

 ベルリン(Berlin)のある病院敷地内に設けられた小道の先には「赤ちゃんポスト」の場所を示す標識が見える──春の花咲く花壇の間を抜けて、設けられた赤ちゃんポストの鉄製の小扉を開けると、そこには暖かいベッドが置かれている。

  「数秒間のアラームが鳴る」と語るのは、ワルドフリード(Waldfriede)病院のガブリエレ・シュタングル(Gabriele Stangl)氏。首都の住宅街ゼーレンドルフ(Zehlendorf)地区にあるプロテスタント教会が運営する病院だ。

  「赤ちゃんのもとに看護師が到着するには2~3分かかる。誰にも見られずに母親が立ち去るには十分な時間だ」

 赤ちゃんポストを設置してから13年の間、アラームは20回以上鳴った。特に夜遅くに鳴るという。

  「2年間は全く鳴らなかったが、ここ半年の間は、5日間に2回鳴ることもあった」とシュタングル氏は語った。

 置かれるのは生後24~30時間の赤ちゃんが多い。8週間以内に母親が引き取りに来ない場合、養子縁組の手続きが進められる。

 赤ちゃんポストは中世ヨーロッパでは一般的な制度だったとされており、19世紀ごろまで続いた。14年前にドイツで再開され、現在はドイツ国内に100か所の赤ちゃんポストがある。

■子どもが親を知る権利を損なう、国連が非難

 赤ちゃんポストの主眼は、極めて深刻な状態に置かれた母親に、赤ちゃんを殺したり、遺棄したりする以外の手段を提供することだ。ドイツの教会がこの制度を支援しているが、この仕組みを管理する法的枠組みは存在せず、方法の是非自体が今もなお、議論の対象となっている。

 国連(UN)は昨年、子どもが親を知る権利を軽視しているとして、この制度を非難している。

 また反対派も、赤ちゃんポストがドイツ国内で毎年殺害される新生児の数を削減できなかったと主張している。赤ちゃんポストに反対する非政府組織(NGO)「Terre des Hommes」によると、1999年から2012年末までの間に、ドイツ国内では新生児313人が遺体で発見された。

 ベルリンでも最近、赤ちゃん2人の遺体が発見されたばかり。1人は森にプラスチックの袋に入れられて遺棄され、もう1人は衣料品のためのリサイクル箱の中に捨てられていた。

■身元秘匿の出産と知る権利の両立目指す

 国連の非難とドイツの倫理団体などからの批判を受けたドイツ政府は、解決策を見いだすために新法案の草案を承認した。

 現行法は助産師に母親の名前の登録を義務づけているが、新法案では身元を公にせずに出産することを認める。その一方で、母親の身元情報を16年間保管し、子どもに親を知る権利を保障するというものだ。

 ある議員は「身元を隠したい母親の願いと、親を知りたいという子どもの権利」の両立を目指したものだと語った。

 だが、赤ちゃんポストの支持者らは別の見方をしている。

  「親を知る権利よりも生きる権利のほうが優先されると私は信じている」とシュタングル氏は語る。

  「自分の出自を知らないという理由だけで、子どもが心理的な穴に落ちると思わない。養子になった家庭で育ち、真実を告げられ、愛情を注がれることで、極めて安定した人間になることができるはずだ」 (c)AFP