【5月6日 AFP】ドイツで6日、10人を連続殺害したネオナチ集団をめぐる裁判が始まった。しかしこの裁判には、警察や情報当局と極右勢力との間に怪しげなつながりがあるのではないかとの疑念が影を落としている。

 2011年11月、ドイツ社会に衝撃が走った。「国家社会主義地下組織(National Socialist UndergroundNSU)」を名乗るグループが2000~07年の間にトルコ系移民8人、ギリシャ人店員1人、女性警官1人の計10人を殺害していた事実が明るみになったからだ。メンバー3人のうち男2人は同月中に自殺し、1人残った女性メンバーのベアテ・チェーペ(Beate Zschaepe)被告が自首した。

 このグループはドイツ東部チューリンゲン(Thuringia)州を拠点にひっそりと活動しながら、複数の銀行を襲い、犠牲者たちを撃ち殺していた。「ケバブ殺人事件」とメディアが名付けた一連の殺人事件について、ドイツ捜査当局はチェーペ被告が出頭するまでずっと、国内にある巨大なトルコ系移民社会のギャングたちの内部抗争とみて捜査を進めていた。

 国政選挙の勢力図上では点ほどの力もない極右グループが突如、数年にわたるテロ計画を実行できる存在として表面化した事件だった。

■国家当局が捜査を妨害

 警察は、NSUが129人もの人物から直接的・間接的支援を受けていたとして、メンバー3人は「一匹狼」ではなかった証拠だと主張している。加担が疑われる人物のほぼ全員が、ドイツ最高裁が16連邦全州で禁止しようとしているネオナチ政党「ドイツ国家民主党(National Democratic Party of GermanyNPD)」と関係を持っていた。

 このNSUの事件の捜査過程で明るみに出たのは、警察と情報当局による見過ごしや過失、驚くべき怠慢によって捜査が妨げられていたことだった。とりわけ情報当局は、捜査の真っ最中に常習的に極右勢力の危険性を過小評価しており、ナチス・ドイツ(Nazi)の過去から学んだといわれてきたドイツの評価は失墜した。

■極右との間に広がる連絡網

 昨年7月には内務省傘下の情報機関、連邦憲法擁護庁(BfV)のハインツ・フロム(Heinz Fromm)長官が、事件関連のファイルを職員が破棄した責任を取って辞任した。破棄されたのは、当局への情報提供者2人にNSUとのつながりがあったことを示す書類だったと報じられている。このスキャンダルは、情報当局と極右の間に広範囲な連絡網が存在し、国家が組織的に金銭と情報を交換していた事実を露呈した。

 NPDに至っては、党員の中に当局への情報提供者がいることをよく認識していた。極右研究が専門の独ポツダム大学(University of Potsdam)のギデオン・ボルシュ(Gideon Bortsch)氏によれば「多くの場合、支払われた金は党内で分かち合われ、引き換えで提供する情報は党が選別していた」という。

■完全な死角で起きた人種差別犯罪

 また、2001年の9.11米同時多発テロ以降、情報当局の資金や人材がイスラム過激派の追跡に注がれたため、ネオナチの監視が緩まっていたという事情もある。

 警察も、NSUによる連続殺人事件に政治的側面がある可能性を無視していた。ボルシュ氏は「一連の犯罪に関連性があるかもしれないという点を、公的な領域全体が完全に見落としていたことが非常に恐ろしい。この連続殺人事件では、人種差別的な性質が完全に死角となっていた」と語る。

 NSUの事件は、治安当局と極右の癒着に疑いを抱かせる一例に過ぎない。ドイツ内務省は最近、暴力犯罪や殺人などの容疑で逮捕状が出ているネオナチ266人が現在も逃走中だと報告した。

 公式統計さえもが、ネオナチによる犯行の可能性がある犯罪数を少なく見積もっているようだ。3月下旬に週刊紙ディー・ツァイト(Die Zeit)とベルリン(Berlin)の日刊紙ターゲスシュピーゲル(Der Tagesspiegel)は、1990~2012年に極右が犯した殺人事件は少なくとも152件あり、その他に人種差別的動機による可能性が極めて高い殺人事件が18件あると報じた。しかし、同時期の内務省の統計では、ネオナチによる殺人件数は「63件」となっている。(c)AFP/Frederic Happe