【4月29日 AFP】南米チリ中部に位置するある「小島」の海岸沿いでは、日なたぼっこをする数十羽のフンボルトペンギンが見られるが、かつてこの場所には数千羽のフンボルトペンギンが子どもを育てるために集まってきていた──。

 チリの首都サンティアゴ(Santiago)から西に約120キロのアルガロボ(Algarrobo)沖に位置するパハロニーニョ(Pajaro Nino)島。かつてこの島には、巣作り時期に約2000羽のフンボルトペンギンが集まってきた。ただ現在ではその数は約500羽程度にまで減少している。

 チリにはさまざまな種類のペンギンが生息しているが、胸の黒い帯模様が特徴のフンボルトペンギンは、主に北部で多く見られる。

 専門家によると、チリとペルーの一部の地域でしか巣を作らないフンボルトペンギンは、人間(の経済活動)やネズミに生息地を追われたり、エルニーニョ(El Nino)現象による生息環境の変化などによりその数が年々減少しているという。

 これまで多くの専門家らがフンボルトペンギンの急速な減少に警鐘を鳴らしてきた。チリでは絶滅危惧II類(VulnerableVU)、ペルーではさらに危機的状況にさらされていることを示す絶滅危惧IB類(EndangeredEN)にそれぞれ位置づけられている。

 アンドレス・ベーリョ(Andres Bello)大学の生態系・生物多様性学部長のアレハンドロ・シメオネ(Alejandro Simeone)氏はAFPの取材に対し、チリとペルーに生息するフンボルトペンギンの数は現在、5万羽足らずになっていると述べ、また「多くの要因が重なりフンボルトペンギンに脅威を及ぼしており、かつての生息数に比べて著しくその数は減少している」と述べた。

■人間、ネズミ、エルニーニョ

 個体数の減少が始まったのは1978年。現在自然保護区に指定されているパハロニーニョ島が、長さ150メートルのコンクリート製の防波堤で本土と繋がったことがきっかけとなった。この防波堤は、停泊するヨットを守るために建造された。

 ヨット愛好家たちは、この地域からフンボルトペンギンを排除しているとして非難を浴びており、ヒナの誕生を阻止するべく、卵を意図的に破壊する姿を捉えたとする映像も公開された。このような行為は違法であり、この件については検察当局も捜査を進めているという。他方、年間数百羽のフンボルトペンギンが漁網に掛かることも、個体数減少の一因になっている。

 個体数減少については、エルニーニョ現象による海流温度の上昇も要因の1つに挙げられている。

 フンボルトペンギンの名前の由来にもなっている、寒流のフンボルト海流(ペルー海流)は、餌となるカタクチイワシやイワシなどを運んでくる。

 だが、エルニーニョの影響で「海水温度が上昇するため、餌となる魚が見つかりにくくなっている」とサンティアゴ国立動物園(Santiago National Zoo)の関係者は述べる。エルニーニョによる海水温度の上昇が繁殖期に起こると、親鳥による餌の確保が遅れるだけでなく、給餌ができなくなることもある。その結果、寒さと飢えのために多くのヒナが死んでしまうという。

 ネズミも大きな問題だ。防波堤で島と本土がつながったことから、ネズミなどの動物が自由に行き来できるようになり、無防備なフンボルトペンギンの卵や羽化したばかりのヒナは、これら動物の格好の餌食となっている。

 2012年の調査によると、この島では半数近くの卵が、生まれてから12時間以内にネズミなどの動物によって食べられてしまうという。(c)AFP/Paulina Abramovich