【3月18日 AFP】ユーロ圏各国と国際通貨基金(International Monetary FundIMF)が16日、キプロスに対する100億ユーロ(約1.2兆円)規模の金融支援策に合意するにあたって銀行預金への課徴金を条件としたことで、キプロス国内に大きな動揺と怒りが広がっている。ニコス・アナスタシアディス(Nicos Anastasiades)大統領は17日夜、欧州側の要求を拒めばキプロスはユーロ圏を離脱して財政破綻するほかないと述べ、国民に理解を求めた。

 キプロス支援策では支援条件として、国内銀行の10万ユーロ(約1220万円)以上の預金に対し9.9%、それ以下の預金に対しては6.75%の割合で、課徴金を徴収するとしている。徴収対象は、年金生活者からロシアの新興財閥、数万人に上る外国人居住者まで、キプロス国内の銀行に預金口座を持つ全ての人が対象となる。

■「まるで窃盗」「不公平」、ATMに長蛇の列

「これじゃあ、まるで窃盗だ!」――怒り心頭のある男性は16日、大急ぎで預金を引き出しに銀行に向かった。

 ATM(現金自動預払機)の前に並んでいた芸術家のキリアコス(Kyriakos)さんも、「私が稼いだ金だぞ。それなのに、誰かの失敗を埋め合わせのために使われるなんて」と憤った。徴収される税額を抑えるため、引き出せる限りの金額を引き出して持って帰るつもりだという。

 キリアコスさんと一緒にATMの列に並んでいた友人のジョセフ(Joseph)さんは銀行員だが、今回のこの支援条件は銀行にとっても青天の霹靂(へきれき)だと語った。「もう引き出せないみたいだ。口座が凍結されたのか、もうATMにお金が残っていないのか…。課徴金を取るなら預金額10万ユーロ以上の口座だけにするべきだ。不公平だよ」

 3連休のキプロスでは次の銀行の営業日は19日とあって、ATMの前には16日から長蛇の列ができた。「今朝(16日)、送金しようとしたけれどできなかった」と、キプロスに拠点を置くフランス人実業家は話した。それでも「できる限りの預金を持って帰るよ。こういう時は、そうするのがいいんだ」と言って2000ユーロ(約24万円)を下ろしていった。

■明かされない金融支援の詳細

 しかし、引き出したからといって課徴金の徴収を免れるわけではない。キプロス公認会計士協会のマリオス・スカンダリス(Marios Skandalis)副会長は、こう説明する。「ヘアカット(債務元本の減免)のため、課徴金徴収の対象口座は既に資金が移動できないようになっている」

 キプロス政府が受け入れた支援の具体的な内容が公表されていない点も、国内銀行預金者たちに大きなショックを与えた一因だ。議会は18日以降、支援策の受け入れについて採決を行う。

 あるベルギー人の会社経営者は「最悪だ」と述べた。個人預金から1万5000ユーロ(約187万円)を徴収されることになるのだという。それでもこの男性は、国が直面している問題の解決に貢献できるなら「別に構わない」と語る。何よりも懸念しているのは、経営する会社への打撃だ。「(会社の預金の)10%を徴収されたら、来週にも廃業せざるを得ない」

 一方、首都ニコシア(Nicosia)に住むドイツ人の男性は怒りをあらわにした。「不公平だ。一般家庭を標的にしている。私は失業しているんだ。そのうえ、わずかな社会保険給付からも課徴金を取るなんて。家族を支えるのに十分とはいえない額しかもらっていないのに。ギリシャみたいなデモが起きないのが驚きだよ」

 アナスタシアディス大統領は17日夜の演説で、「最も痛みの少ない選択肢を選んだ」と弁明。「経済と国民への影響を最小限に食い止めるため、政治生命を賭ける」と述べ、少額預金者への負担軽減を求めてユーロ圏の説得を試みると約束した。(c)AFP/Caroline-Nelly Perrot/Charlie Charalambous