【3月13日 AFP】かみつき行為で伝染する顔面腫瘍により絶滅の危機にさらされているタスマニアデビル――この腫瘍のワクチン開発への突破口が見つかったとの研究が、12日の米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に掲載された。

 研究はタスマニア大学(University of Tasmania)、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)、南デンマーク大学(University of South Denmark)、シドニー大学(University of Sydney)の共同研究として行われ、タスマニア大の免疫学者グレッグ・ウッズ(Greg Woods)氏が主導。いかにしてこの腫瘍が根付き、急速に成長しているのかを突き止めた。

 1996年に野生で初めて発見されたデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)は、感染したタスマニアデビルを通常3~6か月以内で死に至らしめる。この疾病により、野生のタスマニアデビルの個体数は91%減少し、危機的な水準近くにまで減っている。

 DFTDがタスマニアデビルに壊滅的な影響を及ぼしている理由について、これまでは、タスマニアデビルが何世代にもわたって近親交配を続けたために遺伝子の多様性がなくなり、免疫システムが弱体化したことが原因だと考えられていた。

 だが、ウッズ氏率いる研究チームは、DFTDの細胞に、通常の哺乳類の細胞表面で見つかる「主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、MHC)」と呼ばれる免疫作動のための重要なマーカーが存在しないことを突き止めた。

 MHCマーカーが存在しないため、腫瘍の細胞は、タスマニアデビルの免疫システムから異物とみなされず、急速に増殖していたのだ。

 さらに重要なことに、DFTD細胞にはMHC分子を作る遺伝子が残っていることが分かった。つまり、DFTDにMHC分子を作らせることができるかもしれないという。

 「免疫反応を誘発するタンパク質であるインターフェロン・ガンマなどの信号分子を導入することで、DFTD細胞にMHC分子の発現を強制させることができるかもしれない」とウッズ氏は述べ、「この発見は、ワクチン開発の可能性を示すものだ」と語った。(c)AFP