【1月30日 AFP】エストニアの首都タリン(Tallinn)市当局はこのほど、欧州連合(EU)加盟国の首都として初めて、市民を対象とした公共交通機関の無料利用サービスを開始した。自動車利用を減らして大気汚染抑制を目指す取り組みで、市民には好評なものの、市内で生活しつつ住民票は出身地に残したままの人々からは不満の声が上がっており、今年10月に行われる選挙を見越した人気取りだとの批判も出ている。

 1991年に旧ソ連から独立した人口約130万人のエストニアは、2004年に北大西洋条約機構(NATO)とEUに加盟し、11年に欧州単一通貨ユーロを導入した。しかし失業率は10%前後と高止まりしており、国民の平均月収は約900ユーロ(約11万円)だ。

 こうした中、タリン市民42万人は今年1月から、利用資格を証明する「特別パス」を入手すればバス、路面電車、トロリーバスを無料で利用できるようになった。市民の約半数が公共交通機関に頼った生活をしていることから、4人家族なら年間数百ユーロの節約が可能となる。

■在住者でも住民票が市内にないと利用不可

 ただし、市民以外の市内在住者にとっては事情は異なる。たとえば、タリン大学(Tallinn University)に通う女子学生のイブさんには、公共交通機関の無料利用の資格がない。タリン市内に住んでいるものの、住民票は出身地である海辺のリゾート地パルヌ(Parnu)にあるからだ。

「地方出身者の収入は一般的に首都の市民より少ない。エストニアは小さな国で、首都を訪れる人は買い物だけでなく、官公庁に用事がある場合だって多いのだから、首都の公共交通機関は誰でも無料で利用できるべきだ」とイブさんは主張する。

 無料利用資格を持たない人が乗車券を買わずに乗車した場合、科せられる罰金は最大60ユーロ(約7400円)。エストニアの失業手当の月額給付とほぼ同額だ。

■環境政策か、選挙対策か?

 市広報は、無料パスの導入によって車を自宅に置いて公共交通機関で通勤通学する市民が増えており、大気汚染と渋滞の緩和に効果が出ていると強調。市民の約半数が既に無料パスを利用していると述べた。公共交通事業に割り当てられた年間予算の約4分の1に相当する1240万ユーロ(約15億円)をかけた無料パス事業で「道路を走る車の数を抑え、市内の大気汚染を食い止めたい。調査結果によれば、タリンの大気汚染の最大の要因は自動車の排ガスだ」と説明している。

 ただ、市は特別パスの利用状況の個人データを最大7年間保存する方針で、プライバシーに関する懸念も指摘されている。また、無料利用サービスそのものが環境対策というより、現在市議会与党の左派中央党による今秋の地方選をにらんだ人気取りにすぎないとの指摘もある。

 タービ・アース(Taavi Aas)副市長はAFPの取材に、こうした批判を一蹴。「わが市は、2018年のEU『緑の首都』に選ばれることを目指している。EU加盟国として初めて公共交通機関の無料パスを全市民に提供する政策、その一助となるだろう」と語った。(c)AFP/Anneli Reigas