【1月23日 AFP】「貧困から逃れ、地球温暖化を避ける唯一の道を世界にもたらすのが原子力エネルギーだとしたら・・・?」──過去には原子力エネルギーに異を唱えながら、主張を180度転換させた人々の声を集めた映画『Pandora's Promise(パンドラの約束)』が18日、米国で開催中のサンダンス映画祭(Sundance Film Festival)で上映され注目を集めている。

 1988年の反核映画『Radio Bikini(ラジオ・ビキニ)』で米アカデミー賞(Academy Awards)長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたことのあるロバート・ストーン(Robert Stone)監督は長年、原子力反対派として知られてきたが、09年の『Earth Days(アースデイズ)』を制作する中、自らの立場が変わったという。「多くの環境保護運動家の側に諦観や宿命論、終末論的な考えがあると思い知らされた。彼らは本当は自分たちの解決法がうまくいくとは思っておらず、われわれはみんな滅びる運命にあるという。わたしはそういう考え方をしたくない」

 今回の映画は、これまで人生のほとんどを反核にささげてきたにもかかわらず、考えを変えた著名な科学者や環境保護運動家、ジャーナリストらに主張の機会を与えている。「反核を唱えていたのに心変わりした人々の目を通して、なぜ彼らは反核を主張していたのか、語らせたかった」

 映画は原子力エネルギーを完璧なものとしては描いていない。しかし統計も用いた現実的な姿勢で、「エネルギー消費を減らしながら、力強い経済成長を達成する」といった環境保護運動が支持する考えを論破しようと試みている。

■「原子力こそ最良のクリーンエネルギー」

 ストーン監督は「世界の人口は増えていく一方で、貧困から世界の人々を引き上げる道徳的責任もある。そうするためにはもっとエネルギーが必要だ。『まず第1に風力と太陽光で世界のエネルギーをまかなおう』という幻想は打ち破る必要がある」と言う。さらに「温室効果ガスの排出制限で全世界的な合意は得られないのではないか。非常に簡素で効果的な、先進的な原子炉を設計することで未来は拓けると思う」

 また地球に対する人間の影響を最小限にする必要があると述べ、「それを実現する唯一の方法は19世紀に逆戻りすることではなく、われわれが持っている最良の技術を使うことだ」と語った。

 映画は事故のリスクを含めた原子力の恐怖についても扱っている。2011年に起きた東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故の映像から始まり、核兵器の拡散や核廃棄物問題の映像へと続く。さらに国連(United Nations)などから入手した資料を用いながら、化石燃料の使用によって起こる危険と原子力エネルギーの危険を対比させた上で、原子力エネルギーは依然、最も環境を汚さず危険が少ないと主張している。

 ストーン監督によれば、原子力エネルギーの価値を再評価する環境保護主義者は今、増えてきているという。「私たちは転機にある。2012年は史上最も暑い年だった。ハリケーン・サンディ(Sandy)によって多くの人々が、今までわれわれがやってきた方法ではうまくいかない、違うことをしなければならないということに気付いた。その答えが原子力だ。しかし、その結論に至ることをみんな恐れている」(c)AFP/Romain Raynaldy