【1月15日 AFP】冷戦以来、厳格な渡航規制を行ってきた共産主義国のキューバで、特別な渡航許可証がなくても外国に行けるようになる法律が14日、施行された。

 半世紀にわたって海外渡航の自由を待ち望んできたキューバ国民は、有効なパスポートがあれば出国許可や外国からの招待がなくても出国できるようになった。 

■大半の国民には手が出ない渡航関連費用

 しかし、旅券局や外国大使館が直ちに混雑するような状況は起きていない。キューバ国民の平均月収は20ドル(約1800円)だが、旅券発給にかかる費用はこれまでの2倍の100ドル(約9000円)となった。国際通貨を入手する機会のないキューバ国民の大半にとっては手が出ない額だ。

 多くのキューバ人は長年、亡命した親族と離れ離れに暮らしてきた。キューバ国内の人口が1120万人である一方、過去半世紀に国を離れたキューバ人は約200万人。キューバ国民の6人に1人が外国で生活している。特にキューバに近い米国のフロリダ(Florida)州を目指してキューバ人たちは、粗末なボートを使ったり、危険な海を泳ぎ渡って違法に移住してきた。同州だけでも約100万人のキューバ人とキューバ系米国人が住んでいる。しかしフロリダまでの航空券は500ドル(約4万5千円)以上する。

 今回の新法はラウル・カストロ(Raul Castro)国家評議会議長が2006年7月に兄のフィデル・カストロ(Fidel Castro)前議長を引き継いで以来、最も大きな改革のひとつだ。

 現議長は不人気な規制の数々を撤廃してきたものの、これまでの渡航制度はキューバ国民の移動の自由を制限するとして人権団体から非難を浴びていた。

 しかし新法による変化は、米国にとっては警鐘となりうる。2国間での「移民危機」が起きる可能性があるからだ。冷戦時代にさかのぼる政策の下、米国は今でも自国領に到達したいかなるキューバ人にも、要請に応じて合法滞在を認めている。しかし米経済が不景気にあり、大統領選サイクルに区切りのついた今、米国はキューバから何万人もの移民が合法的に流入する事態を計画に入れていない。
 
■渡航の自由は本物か、懐疑派も

 一方、今回の新法によって誰もが自由に渡航できるようになるわけではない。運動選手、公務員の一部、軍関係者、さらに「重要」とみなされる分野の専門家の渡航には制限が残る。キューバ政府は前週、医師は「重要」な分野に含まれず自由に渡航できると述べているものの、どのような分野が「重要」とされるのかについては特定していない。

 キューバ政権に懐疑的な人々は慎重な姿勢を崩さず、新法による渡航の自由が本物なのか、選択的に施行されるのかを見極めようとしている。これまで同国の渡航許可証発行の基準は明らかでなく、申請が却下された場合にも説明はされていない。(c)AFP/Francisco Jara