【12月27日 AFP】乗馬の妙技で名高いモンゴルの人々──だが、ここ首都ウランバートル(Ulan Bator)では、ハマー(Hummer)やランドクルーザー(Land Cruiser)、レンジローバー(Range Rover)といったSUV車がひしめき合う幹線道路に耐えなければいけない。

 草原と砂漠が果てしなく広がるモンゴルは、世界で最も人口密度が低い国だ。だが世界保健機関(WHO)によると、鉱業ブームを背景にした経済成長によって、首都ウランバートルはイランのアフワズ(Ahvaz)に次いで世界で2番目に汚染された都市となってしまった。

 交通渋滞も深刻だ。現在ウランバートルで登録されている車は21万台。2006年の登録台数のほぼ4倍にも上る。靴卸会社で経理担当として働くバトスフ・ゲレルマー(Batsukh Gerelmaa)さんは毎朝、零下の寒さの中、おんぼろのトローリーバスに揺られ通勤する。市の南側から北西側までの距離はたったの6キロだが、渋滞のため1時間はかかる。バスの中は寒く、仕事に就くまでに体はすっかり冷え切るほどだが、タクシーは高いし同じくらい時間がかかるため、他の交通手段はないと嘆く。

 住民の多くは都心部を徒歩で移動するが、ビジネススーツやハイヒールに身を包んだ男女にとっては良い選択肢とはいえない。4月から10月の暖かい季節は、道路工事や建設現場、舗装されていない裏道から中央アジアの沈積土がほこりとなって立ち上るからだ。

 大気汚染の最大の原因は、マイナス30度に冷え込む冬、郊外の住民が住む円形型の移動テント「ゲル」で暖を取るために石炭を惜しみなく燃やすことにある。だが、モンゴル国立大学(National University of Mongolia)の調査によると、空中にある粒子状物質の8~10%を自動車の排ガスが占めているという。

 そこでウランバートル市当局は、渋滞緩和と大気汚染解消のため、2億ドル(約170億円)を投じたバス高速輸送(BRT)システムの整備に着手している。

 BRTは市の南北をつなぐ幹線道路の中央に作られる全長14キロの専用車線を走るため、渋滞に巻き込まれることがない。来春には最初の区間の設置が始まり、最終的には64.5キロの長さになるという。また、旧ソ連や韓国の中古車を使っていた従来の公共バスからの飛躍的な進歩となる最新鋭のBRT車両は、冬にはもちろん暖房が入り、郊外住民の通勤時間は最大3分の2に短縮される。

 BRT事業を支援するアジア開発銀行(Asian Development BankADB)のモンゴル国担当副局長シェーン・ローゼンタール(Shane Rosenthal)氏によれば、運営コストは鉄道よりも安く、敷設には年数もかからない。鉄道ならば工事に10年以上、コストは少なくとも20倍かかるという。

 同時にウランバートルのエルデネ・バトウール(Erdene Bat-Uul)市長は、曜日ごとに自動車のナンバープレートによる市内への乗り入れ規制を導入し、渋滞問題の解消に努めている。

 生計をたてるために「もぐり」のタクシーを走らせている元兵士の男性(62)は、この規制のために稼働日が週1日減ったが、不満はない。規制によって渋滞が減り、客の回転率が上がったため、結果的に稼ぎが多くなったからだ。「前は数人の客しか乗せられなかった。1日の大半を渋滞にはまって動けずに過ごしていたからね」(c)AFP/Michael Kohn