【11月27日 AFP】クリスマスに大切なのはプレゼントの中身ではなく「こころ」──納得できない人は、700年の歴史を持つ日本の贈り物の礼法、「折形(おりがた)」を外国人に提供するパリ(Paris)の小さな店を訪れてはどうだろう。

 パリ・カルチェラタン(Latin Quarter)の一画にある木造の小部屋に店をかまえる「MIWA」は、年末のショッピングシーズンの喧騒とはほど遠く、コンセプトショップと画廊、そして小さな寺をひとつにしたような空間だ。

 日本人実業家の佐藤武司(Takeshi Sato)氏と若きフランス人男性のジョアン・ラルーメック(Joan Larroumec)氏がオープンしたこの店は、入会した人々に日本の上位文化への入り口を提供している。

 ラルーメック氏は「これはベンチャー事業ですが、日本の伝統文化に関する知識を広めることも目標にしています」と語る。「多くの人にとって近づきがたい日本の一面を垣間見ることができる窓なのです」

■電子メールとは真逆のコミュニケーション

 そうした日本の習慣の一つが、14世紀以来、主に天皇家への進物時に実践されてきた神道文化に由来する贈答作法の「折形」だ。

「日本から輸入した水を用いての茶会からすべては始まります」とラルーメック氏は続ける。「贈り物を持ち込む方々に、その贈り物にどんな意味を込めたいのか、贈り物を受け取る方にどのように感じてほしいのか、そういった話を伺った上で、包み方や包み紙、結び方や折り方を、一連の作法に従って決めます。(店の)目的は、贈答の作法に今一度、意味をもたせようというものです」

「電子メールや瞬間的なコミュニケーションの時代にあって、これは真逆でしょう」

 日本での佐藤氏の会社「ライトニング・コンサルティング(Rightning Consulting)」は、ファションブランドのルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)や携帯大手のNTTドコモ(NTT DoCoMo)などのために伝統工芸に基づいたプロジェクトを手掛ける。ドコモのプロジェクトでは、寺社建築に使われてきたヒノキを本体素材に採用した携帯端末を制作した。

 佐藤氏はパリでの「MIWA」プロジェクトに際し、伝統工芸の関係者や職人たちとのつながりを生かした。「MIWA」の女性スタッフ2人の作法を監修したのは、14世紀から続く小笠原流礼法の宗家、小笠原敬承斎(Keishosai Ogasawara)さんだ。一連の作法は本来なら習得に3~5年はかかるというが、スタッフには3週間の特訓で基本のみを教え込んだ。

 神主2人が執り行ったオープニングに東京から駆けつけた小笠原さんは折形について、贈り物に自分の「こころ」を託すことだと説明する。結び目は2人の人の絆を表しているという。
 
 店で使われる和紙は人間国宝の和紙職人の手によるものだ。部屋の中央にあるカウンターには、樹齢300年のヒノキから一本取りした無節材が使用されている。これはつまり「職人たちが16世代にわたり代々若芽を摘み取っていた」(ラルーメック氏)木から作られたことを意味する。ヒノキと鋼鉄で作られた小型ペーパーナイフは数百年の歴史を持つ刀工房が製作した。「これらはすべて、完璧なもの作りには数百のささいなディテールを必要とするという日本人の考え方から来ています」 

 このように洗練された演出には、それ相応の値段が付随する。年会費は1000ユーロ(約10万6000円)で、会員はいつでも折形によるラッピングを予約できる。また3000年前の縄文土器から、8万ユーロ(約850万円)相当の19世紀の着物まで、日本国外ではほとんど目にすることのない貴重な品々も購入できる。オープンから2週間で日本人が20人以上、フランス人が10人以上が入会した。全員、日仏文化交流に関係するパリの上流の人々だった。今後1年以内に100人まで会員を増やすことを目指している。

「会員費は高く思えるかもしれませんが、2万~8万ユーロ(約210万~850万円)もする品を収集する人びとを思えば決してそうではありません」と話すラルーメック氏は、日本通として知られるジャック・シラク(Jacques Chirac)元大統領にも入会を打診した。シラク氏からは今のところ返事はない。(c)AFP/Emma Charlton