【10月8日 AFP】インドの首都ニューデリー(New Delhi)に住んでいた13歳の少年、シバム・シン(Shivam Singh)君は7月のある夕方、帰ってから宿題をすると母親のピンキー・シン(Pinky Singh)さんに言い残し、お菓子をもらってくると外に駆け出していった。それっきり、シバム君は家に戻っていない。シバム君のように、インドでは毎年5万人もの子どもたちが失踪している。

  「本を開きっぱなしにしたまま、息子はサンダルを履き、髪をとかして出かけていった。あれが息子の姿を見た最後になってしまった」。ピンキーさんはシバム君が姿を消した当時の状況を涙ながらに語った。それから3か月。シバム君の部屋でおもちゃやスポーツ大会のトロフィーに囲まれ、ピンキーさんはシバム君が使っていたベッドに腰掛け、息子の身に何が起こったのだろうと不安を募らせている。「薬物に関わったり物乞いを強いられていないことを祈るしかない。息子は純真で勉強好きな子だったの」

■狙われる貧困地区の子どもたち

 直近の犯罪データによると、ニューデリーでは毎日、14人の子どもの行方が分からなくなり、このうち少なくとも6人が人身売買の犠牲になっている。特にデリー(Delhi)やムンバイ(Mumbai)といったインドの大都市は犯罪組織に狙われやすい。警察によれば、こうした犯罪組織は薬物取引と似たような手口で子どもたちの人身売買を行っているという。

 犯罪組織による子どもの人身売買を解決する取り組みが不十分だとの申し立てを受けて、インドの最高裁判所は今年8月、連邦政府および各州政府に対し、失踪中の子どもたち5万人に関するデータの提供を命じた。

 警察関係者は、複数の工場から子ども数百人を救出し、児童買春組織の大規模摘発も行っていると、取り締まりの一定の成果を強調する。だが一方では子ども人身売買問題の規模は警察が無力さを感じるほど、あまりに大きいと認めた。

 インドの連邦捜査官らは前年、国内全土で子どもを誘拐し児童買春や物乞いを強制している犯罪組織は815団体、構成員5000人余りに上ると発表している。

 デリー警察のラジャン・バガット(Rajan Bhagat)報道官はAFP通信に対し、「誘拐された子どもたちが、安い労働力として工場や店舗、家で働かされている事例は非常に多い。そうした子どもたちは、性行為を強要されたり、児童ポルノ産業に追いやられる場合もある」と説明。犯罪組織は特に、都市部の貧困地区に住む子どもたちを狙っているという。子どもたちの行動を把握しやすく、食べ物で誘い出して簡単に誘拐できるとの理由からだ。