【9月26日 AFP】南太平洋に散在する海洋公園をつなげて、月の表面積に匹敵する広大な自然保護公園を作ろうという壮大な計画が、少しずつ進められている。実現すれば欧州全域の4倍、オーストラリアの国土の5倍の広さを誇り、全世界の表面積の8%を占める海洋自然保護公園が生まれることになる。

 計画の立役者の1人が、国際舞台で活躍した元ラグビー選手で現在は環境保護運動家のケビン・イロ(Kevin Iro)氏だ。クック諸島の白砂のビーチで、枯死したサンゴの塊を拾い上げ、こう語った。「僕が子どもの頃はみんな生きていた。サンゴ礁の中に道があって、歩くとざくざく音がしたものだ。今はもう、ここには(生きている)サンゴはほとんどないけれど」

 クック諸島のヘンリー・プナ(Henry Puna)首相は、前月主催した太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands ForumPIF)で、「人類全体の未来につながる貢献」として100万平方キロ超の海洋自然保護区設立計画を発表した。クック諸島は15の島からなる小さな国で、総面積は米ワシントンD.C.がすっぽり入る程度。それでも米環境保護団体「コンサベーション・インターナショナル(Conservation International、CI)」の共同創始者、ピーター・セリグマン(Peter Seligmann)氏は、海洋保護の最先端を行く勇気ある取り組みだとたたえる。

■太平洋島しょ国またぐ自然保護ネットワーク

 とはいえセリグマン氏にとって、クック諸島の試みはもっと大きなジグソーパズルの1片にすぎない。

 セリグマン氏は今、太平洋の島しょ国全体を網羅する海洋自然保護公園ネットワーク「パシフィック・オーシャンスケープ(Pacific Oceanscape)」の創設を各国に働きかけている。北はマーシャル諸島から南はニュージーランドまで4000万平方キロ、全世界の表面積の8%に及ぶ前代未聞の規模だ。「史上最大の保護計画だ。少しずつ、1国、1国と集まりつつある。壮大だよ」

 キリバス共和国とニュージーランド領トケラウ諸島が既にクック諸島の海洋保護区宣言に同調し、フランスの海外地域ニューカレドニアも今後数年以内に140万平方キロの保護区設立を宣言する構えだ。他にも保護区計画は目白押しで、セリグマン氏によれば、おのおの広大な領海を持つPIF加盟15か国・地域は全会一致で「パシフィック・オーシャンスケープ」計画に賛同している。

「各国にとっても賢明な自国の利益につながる。海は四面楚歌だ。気候変動と海洋酸性化によって漁業は脅かされ、サンゴの白化が進んでいる。(太平洋島しょ国にとって)この計画は資源を守り、収入を生み、安全を保障し、歴史や文化とも調和するものだ」

■先進国が手助けを

 広大な海洋保護区を宣言したところで、PIFの島しょ国には一帯を巡回し、密漁を取り締まる手段がないのだから無意味だとの批判もある。

 これに対しセリグマン氏は、米国やオーストラリア、日本、ニュージーランドなど環太平洋の先進国が、監視任務を支援すればいいと主張する。「なんといっても広大な海域だから、取り締まりは本当に難しい。だが、100年後まで豊富な漁業資源を残す試みは、先進国の利益にもなるはずだ」

 イロ氏はこの「パシフィック・オーシャンスケープ」計画を、クック諸島に何世紀も伝わってきた「ラウイ」という独自の漁業資源保護制度の拡大版だと考えている。

「共同体の長が『ここではもう漁をしてはいけない。今から私がここを『ラウイ』にする。資源が再生するまで誰もここに触れてはならない』と告げるんだ。クック諸島で育った者なら誰でも、なぜラウイが宣言され、なぜそれが解かれるまで魚を獲ってはいけないのかを知っている。この海洋公園も基本的に同じ考え方。拡大版というだけだ」 (c)AFP/Neil Sands