【8月27日 AFP】中国伝統薬で用いられるトラの骨の代用品として、南アフリカからアジア向けにライオンの骨の輸出が増えており、種の絶滅が危ぶまれる事態となっている。

 ライオンの骨の出荷先は主にベトナムとラオス。やはり伝統薬として角の人気が高いサイの密猟が激化した状況と似ている。英保護団体「ライオンエイド(LionAid)」のピーター・カット(Pieter Kat)氏は「最近になって突然、ラオスから大勢の人が『トロフィー・ハンティング』にやって来るようになった。こんなことはラオスの歴史に今までなかっただろう」と語った。

 南アフリカでは毎年約500頭のライオンの狩猟が合法的に行われている。そのライオンたちを育てているのは、世界の動物園へ供給するライオンを育てているのと同じ商業用の繁殖施設だ。

 つい最近まで、訪れるハンターたちは2万ドル(約160万円)を支払って暖炉の上に飾るような剥製や毛皮といった「トロフィー(記念品)」だけを持ち帰り、残りの部分は犬に与えていた。しかし、粉末にしたライオンの骨が今、中国の薬酒「虎骨酒」の原料であるトラの骨の代用品として人気を集めている。絶滅危惧種のトラは国際法で取引が禁止されているからだ。2008年から取引されるようになったライオンの骨の売値は、最近では1頭あたり1万ドル(約78万円)にもなる。

■「殺すために繁殖する」ことの倫理

 統計によると、2010年には数百頭分の骨が合法的に取引された。「南アフリカ捕食動物繁殖協会(South African Predator Breeders Association)」のピーター・ポトギーター(Pieter Potgieter)会長によると、取引は州の担当官に厳密に監視されており、合法的な狩猟で殺したか自然死したライオンの骨だと確認できない場合は輸出は認められない。

 だが、動物愛護家らはそれこそが飼育・繁殖活動の状況を悪化させていると非難する。

「ライオンは今、骨を『収穫』するためにわざわざ繁殖させられている」と、南ア南西部でライオン保護区を運営するポール・ハート氏は訴える。ライオンの密猟も指摘されており、市場に密猟者が侵入していくのも時間の問題だろうという声もある。ライオンの骨の輸出を中止するようジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)大統領に求めるオンライン署名には、70万人が応じた。

 一方、繁殖関係者はサイのような密輸は起こらないと自信を見せる。取引が禁じられているサイだが、前年1年間で角のために約500頭が殺された。繁殖協会のポトギーター会長は言う。「ライオンの骨は市場で合法的に手に入るのに、密猟でリスクを冒そうという者がいるだろうか。南アのライオン繁殖業界は大量のライオンを供給できる。アジアのトラの保護や、南アのライオンの保護にも貢献している」

 繁殖によってライオンの死がいの合法な取引を保持するか、それとも取引を非合法化して密猟の危険性を高めてしまうのか。関係者らの主張が分かれる一方で、政府は沈黙を守っている。(c)AFP/Jean Liou