【8月28日 AFP】英語もヒンディー語も、ロシア語もイタリア語も、みんな起源はトルコ――。こんな国際チームの研究結果がこのほど英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。疫病流行の追跡用に開発されたコンピューター・モデルを使って言語の進化をさかのぼったところ、数百種類のインド・ヨーロッパ語の発祥地は全てトルコに行き着いたという。

 アイスランドからインドまでの広い地域で約30億人が話すインド・ヨーロッパ語には、相互に類似性がある。そのため、発祥の地はどこか、また言語の広がり方や発達の仕方から推測される先史時代の人類について、活発な議論が交わされてきた。

 インド・ヨーロッパ語の起源について有力な説は、今から5000~6000年前の青銅器時代に、現在のウクライナに近いカスピ海(Caspian Sea)北部の草原から馬や馬車で東西へと散っていった遊牧民たちに由来するというものだ。

 一方、遊牧生活ではなく農業が言語の伝播を促進したという説もあり、約8000~9500年前のトルコが発祥の地だと主張している。

■共通する単語の系図を作成

 今回の研究では現代語と古代語の双方について、共通する単語(同根語)の大量なデータベースを構築した。たとえば「母」という単語は英語では「mother」だが、オランダ語では「moeder」、スペイン語では「madre」、ロシア語でが「mat」、ギリシャ語では「mitera」、ヒンズー語なら「mam」となる。それから、これらの単語のルーツをたどって言語の「系統樹」を作っていったところ、トルコが共通の祖先だということが分かったという。

 データベースの検証には、世界的に流行する疫病の発生源を追跡するために開発された手法が利用された。生物学者たちは世界各地で病原ウイルスのサンプルを採取し、DNAを解析し、遺伝子変異を検証してウイルスの進化をさかのぼり、発生地を突き止めていく。

 今回の論文の主執筆者であるニュージーランド・オークランド大学(University of Auckland)の進化心理学者、クエンティン・アトキンソン氏(Quentin Atkinson)は、「系統樹さえ分かれば、枝をたどって根元へたどり着ける。同じ手法を言語にも用いた」と説明する。

 アトキンソン氏によれば、生物の進化と「生きている言語」の進化に類似性があることは以前から知られており、かのチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)も『種の起源(Origins of the Species)』や『人類の起源(The Descent of Man)』でこの「興味深い相似性」について触れているという。

■農具と一緒に文化と言語をつかんだ人々

 今回の解析結果について、AFPの電話インタビューに応じたアトキンソン氏は「世界の言語が多様化する中で、農業が果たした役割の重要性を改めて示した重要な例」だと評価した。

 また、初期の人類の移動が農業の普及を促進したとする考古学や遺伝学の研究が今回の分析の基礎にあると指摘。「あらゆる狩猟採集民が欧州にいて、隣人が畑を耕し始めたのを見て自分たちも真似をした、というわけではなかったのだ。実際に人の移動があって、文化も移動していったという証拠を、諸言語が提示している。狩猟採集民は単に鋤(すき)を手にしたのではなく、文化と言語も手にしたのだ」と述べた。(c)AFP/Mira Oberman