【8月6日 AFP】がんの化学療法により、腫瘍の増殖を助けたり治療に耐性をもたらしたりするタンパク質の分泌が増えるとする研究論文が、5日の英医学誌「ネイチャー・メディスン(Nature Medicine)」に掲載された。

 米国の研究チームは、実験では容易に死滅するがん細胞が、なぜ人体内部では高い回復力を持つのかを調べていた。そのときに、この「完全に予想外」の結果にたどり着いたという。

 前立腺がんの男性から採取した細胞で化学療法の効果を調べていた研究チームは、化学療法を受けた後に健康な細胞の「DNAが損傷した証拠」を発見したという。

■損傷受けた細胞がタンパク質を分泌

 化学療法は腫瘍細胞の増殖を抑制することで効果を発揮する。研究チームによると、化学療法で損傷を受けた細胞は「WNT16B」と呼ばれるがん細胞の生存率を高めるタンパク質をより多く分泌していた。研究チームはこの結果を、乳がんと卵巣がんの腫瘍でも確認した。

「WNT16Bの分泌増加は完全に予想外だった」と、論文の共同執筆者で、米ワシントン(Washington)州シアトル(Seattle)にあるフレッド・ハッチンソンがん研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center)の研究者、ピーター・ネルソン(Peter Nelson)氏は、AFPの取材に述べた。

 このタンパク質は、損傷した細胞の近くにあるあるがん細胞に吸収されていた。「分泌されたWNT16Bは、近くの腫瘍細胞と反応して腫瘍に成長や浸潤を働き掛け、さらに重要なことに、その後の治療への耐性をもたらしていた」(ネルソン氏)

 がん治療では、初期の治療はよく効くものの、やがてがんが急速に進行し、その後の化学治療に耐性が生じることがある。がん細胞の増殖率は、治療を行うごとに加速することが分かっている。「良性細胞の損傷応答が、腫瘍細胞の増殖動態の強化に直接的に寄与している可能性があることを、われわれの研究は示唆している」とネルソン氏は述べる。

■新治療に道切り開くか

 ネルソン氏は、今回の研究結果により、さらに効果のある新治療の研究が進む可能性があると指摘する。

「たとえば、化学療法の際にWNT16Bの抗体も投与することで効果が高まる(より多くのがん細胞を殺傷できる)かもしれない。また代替手段として、より少量でより有害性の低い薬剤をがん治療に使用することができるかもしれない」と、ネルソン氏は述べた。(c)AFP