【8月3日 AFP】エジプトで7月、アナウンサーや出演者がみな全身を黒いベールで覆った女性ばかりの衛星テレビ・チャンネルが放送を開始した。イスラム教の断食月「ラマダン(Ramadan)」初日に始まった「マリア・テレビ(Maria TV)」。イスラム教の預言者ムハンマド(Mohammed)の妻の1人にちなんだ名称で、首都カイロ(Cairo)のスタジオで働くスタッフは全員女性だ。

 特徴的なのは、全身をすっぽり覆うイスラム教徒女性用の衣服「ニカブ」を着た女性しか出演しないこと。2人の女性司会者は手袋もはめている。細いスリットからのぞく両目の他に、肌は全く見えない。セクシーな女優が目白押しのエジプト・テレビ界で、ニカブ姿の女性が登場するチャンネルは初めてだ。

■テレビから追放されていたベール姿

「このチャンネルを立ち上げた主な目的は、ニカブをかぶりながら活動的な女性が存在することを社会に示すこと。医師や技術者、テレビ出演者として成功し、社会的な役割を果たしていると知らしめることです」と、メーンキャスターのアベール・シャヒール(Abeer Shaheer)さんは語る。

 前年に崩壊したムバラク政権下ではずっと、イスラム教徒の女性がベールをかぶった姿、特に顔全体を覆ったベール姿はテレビ画面から「追放」されていた。エジプトのイスラム女性の多くは頭髪だけを覆う「ヒジャブ」というスカーフを着用しているが、7月にイスラム系の大統領が誕生して以降、カイロの街角ではニカブ人気が高まっている。

「私たちは(ムバラク政権下で)何十年も抑圧されてきました。個人の自由を行使し、信仰するイスラム教を表す服装をしているというだけで、行ってはいけない場所があり、大学や政府機関からも他の人たちと異なる扱いをされてきたのです」(シャヒールさん)

■イスラム主義の拡大か、言論の自由か

 新たに就任したムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)大統領はイスラム原理主義組織ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)出身。議会選挙では超保守的なサラフィー主義(Salafi)のグループも大勝した。

 こうした情勢下、全身ベールの女性たちによるテレビ放送の登場は、イスラム勢力の拡大を恐れる人々の不安をかき立てている。

 一方、マリア・テレビこそ前年の革命がもたらした言論の自由の一例だとみる人もいる。エジプトの女性団体「ナズラ(Nazra)」のモズン・ハッサン(Mozn Hassan)氏は、次のように述べている。「長年、エジプトの公式メディアでは、スカーフを頭に巻いた女性たちはカメラから遠ざけられ、画面に写らない仕事にまわされていた。このチャンネルは、エジプトにもニカブをかぶった女性たちがいるんだという主張だ。このようなチャンネルを作り、言いたいことを言う自由があることが大事だ」

 マリア・テレビ関係者は、自分たちは宗教チャンネルではなく、女性向けの放送だと主張している。「私たちはカルチャー・チャンネルです。子ども番組や裁縫の番組、恋愛やコメディー、政治――。女性が必要とするあらゆるものを放送します」とシャヒールさんは語った。(c)AFP/Mostafa Aboul Ezz