【5月30日 AFP】ロシアのインターネットセキュリティー大手カスペルスキー・ラボ(Kaspersky Lab)は29日、国連(UN)専門機関の国際電気通信連合(International Telecommunication UnionITU)の求めに応じて調査したところ、中東諸国の政府機関や研究機関で新種のコンピューターウイルス「フレーム(Flame)」を発見したと発表した。

 同社のアレクサンドル・ゴステフ(Alexander Gostev)セキュリティーチーフエキスパートによれば、フレームの主な攻撃標的はイランとみられ、イスラエル、パレスチナ自治区、スーダン、シリア、レバノンでも影響が出ている。

 フレームはイラン石油省およびイランの主な石油輸出拠点へのサイバー攻撃にも使われていると欧米メディアは報じている。イランは1か月前に、石油省や石油関連機関のサーバーを狙ったデータ削除ウイルスの拡散を止めたと発表したばかりだった。

 イランでは2010年6月に核関連施設などで「スタクスネット(Stuxnet)」と呼ばれるコンピューターウイルスが確認されており、この時にはイスラエルの関与が広く疑われた。

■イスラエル政権幹部、関与をほのめかす?

 イスラエルのモシェ・ヤアロン(Moshe Yaalon)首相代理兼戦略担当相は29日、カスペルスキーの発表から数時間後に軍のラジオ放送で、イスラエルの関与をほのめかすかのような発言をした。

「イランの脅威を深刻に捉える者がそれを妨害するために、こうした方法も含めていろいろな手段を使うのは妥当なことだろう。イスラエルは高度な技術に恵まれている。そうした技術はわが国にあらゆる種類の可能性を与えてくれる」(ヤアロン首相代理)

 ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相も同日、テルアビブ大学(Tel Aviv University)で開かれたセキュリティーに関する国際会議で、フレームに言及することはなかったもののイスラエルのサイバー技術は優秀だと語った。

「サイバー領域で国の大きさはそれほど重要ではないが、国の科学技術力は非常に重要だ。この点においてイスラエルは恵まれている。わが国はこの分野に人的資源、金銭的資源をつぎ込んできたし、今後数年間はさらに投資が増えるだろう。私はサイバー分野でイスラエルが世界のトップ5に入るという目標を掲げている」(ネタニヤフ首相)

■どの国が作ったのか

 カスペルスキーによれば、フレームはいくつかの国で「サイバー諜報活動」のためのサイバー兵器としてよく使われている。同社のイスラエル代理店、パワー・コミュニケーション(Power Communication)のイーラン・フロイモビッチ(Ilan Froimovitch)最高技術責任者(CTO)は、フレームはその複雑さと能力で従来のマルウエアをはるかにしのいでおり、「まるであらゆる悪意あるコードの最強の部分を取り出し、ひとつのコードに集めたようだ」と言う。イラン政府は、フレームはスタクスネットの約20倍の大きさだとしている。

 フロイモビッチ氏はフレームについて、「打撃を与えるためにではなく、察知されることなく情報を収集するために設計されている」と指摘した。同氏は個人や民間企業がフレームを作るほどの大きな投資をするとは考えにくいとして、おそらくいずれかの国、あるいはいくつかの国が協力して作ったものだと推測している。

 イスラエルにこうしたプログラムの開発能力があるかと質問された同氏は、「イスラエルには素晴らしい知識がある。そしてわれわれは自国が世界で最も賢い国だと思いたいわけだが、証拠からすればこのようなプログラムを開発できる国は、欧米におそらくさらに数か国あるだろう」と答え、質問に直接答えることは避けた。(c)AFP/Steve Weizman