【5月21日 AFP】ペットは飼い主に似る、と良く言われるが、米国人はさらに最先端を進んでいる。愛するペットたちにもフェイシャルエステや疑似睾丸インプラントといった美容サービスを受けさせる飼い主が増えつつあるのだ。

 豊胸手術や審美歯科治療からエステまで、美容施術がさかんな米国でペットの犬や猫たちの見た目が注目されるのは、時間の問題だったのかもしれない。

 例えば、マルチーズの「ホップス」は最近、ブルーベリーのフェイシャルエステにブロー、チキン風味の歯磨き粉による歯のブラッシングを受けた。グルーマー(ペット美容師)のアニ・コーレス(Ani Corless)さんはこうしたサービスについて、愛玩犬にとっての「新しい常識」だと話す。「人の手で品種改良された犬種ですから、メンテナンスが必要なんです」

■虐待か、ペット支援か?

 さらに思い切った、苦痛を伴う美容手術を受けさせられるペットたちもいる。

 チワワ2匹を飼っているニューヨーク(New York)州議会のニコル・マリオタキス(Nicole Malliotakis)議員(共和党)は、ペット相手の美容手術は今や入れ墨、耳・鼻・顎のピアス、脂肪除去、フェイスリフトにまで上っていると指摘。「新たな形の動物虐待だ」と非難しつつ、ペット向け美容手術を禁じる法律を議会に提案している。

 だが、米カンザスシティー(Kansas City)郊外に動物用疑似睾丸の製造大手「Neuticles」を設立したグレッグ・ミラー(Gregg Miller)氏は、マリオタキス議員は問題を誇張していると反論する。

 去勢されたペット用にNeuticlesが製造する疑似睾丸は、人間の女性の豊胸手術に使用するものと同じシリコン製だ。価格は2個セットでXSサイズ=119ドル(約9400円)~精巣上体付きXXLサイズ=599ドル(約4万7400円)まで。

 ミラー氏によると、これまでに米国内外で50万匹以上のペットたちにインプラント手術を行ってきた。手術を受けた動物には犬や猫はもちろん、馬、牛、サル、ネズミ、水牛までいるという。

 ペット用疑似睾丸という発想は1993年、ミラー氏の愛犬「バック」が去勢手術後、うつ状態に陥ったことがきっかけで生まれた。「彼ら(犬)も喪失感をおぼえるんです」とミラー氏。雄犬には睾丸をなめる習性があることから、疑似睾丸をつけてやれば去勢された犬たちも喪失感を味わわずに済む、と主張する。

 メリーランド(Maryland)州の獣医、フラビア・デルマストロ(Flavia DelMastro)氏も、愛犬に疑似睾丸インプラント手術を受けさせた1人。犬が除去された睾丸を懐かしがるとは思わないが、疑似睾丸には「失われた重み」を補う癒し効果があると考えている。「特に大型犬は除去する睾丸も大きいので、手術後も大きな陰嚢が残されてしまいますから」

 リアリティー番組などで人気のソーシャライト、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)もペット用疑似睾丸の支持者で、愛犬ロッキーに手術を受けさせたと報じられている。

■家族化したペットの「擬人化」

 しかし、カリフォルニア(California)州の動物愛護団体「グローバルアニマル(GlobalAnimal)」のタジ・フィリップス(Tazi Phillips)氏は、疑似睾丸インプラントはペットを擬人化する行き過ぎた傾向の1つだとして「ばかげている」と切り捨てる。

 フィリップス氏は、垂れた耳を真っすぐ立てる手術や、ひっかき癖を防ぐための抜爪、かみ癖から家具などを守るための抜歯などの例を挙げた。ドーベルマンなどの大型犬では、飼い主の理想的な体型にするため耳や尾を切る慣習がある。そして、人間の美容願望からペットへの入れ墨やピアス、脂肪吸引、鼻の整形などが行われている。

 こうした傾向は、ペットを家族の一員と考える飼い主が増えたことで強まっているとフィリップス氏は指摘している。

 一方、批判に対し推進派は、「ハリウッド的なケア」はペットへの愛の示し方の1つだと主張する。

 グルーマーの全米団体「NAPCG(%%National Association
of Professional Creative Groomers)」のウェブサイトには、毛を刈られたり染められたりして、サッカーファンやハロウィーンのお化け、さらには米歌手レディー・ガガ(Lady Gaga%%)に見立てられた驚くべき姿の犬たちの写真が紹介されている。

「これは虐待なのでしょうか?」とNAPCGは問いかける。「NAPCGでは、動物たちが自分の見た目のせいで困惑することはないと考えます。私たちがペットにきみは美しいよと話しかけ、美しいものとして遇すれば、ペットたちも好意的な反応を返してくれるはずです」。

 米国ペット製品製造者協会(American Pet Products Association)によると、全米では2012年に530億ドル(約4兆2000億円)がペットに費やされた。最大の支出は餌代だが、グルーミングを含む「ペットサービス」の分野も41億1000万ドル(約3250億円)に上り、拡大を続けている。(c)AFP/Sebastian Smith