【4月16日 AFP】海の底に沈む豪華客船タイタニック(Titanic)号が、向こう30年以内に「さびつらら(rusticles)」の塊と化してしまうかもしれない――。カナダの微生物学者がこう警鐘を鳴らしている。

 1991年に行われた調査で、水深約3780メートルの海底に眠るタイタニック号には、つららや鍾乳石に似た形状のさびがその巨大な船体からぶら下がるように形成されていることが確認された。このつらら状のさびは通常、鍛鉄(たんてつ)が水中で酸化することによって生じる。

 カナダ・ハリファクス(Halifax)のダルハウジー大学(Dalhousie University)のヘンリエッタ・マン(Henrietta Mann)博士(生物学・地質学)がベッドフォード海洋学研究所(Bedford Institute of Oceanography)から入手したサンプルを電子顕微鏡で詳しく調べたところ、タイタニック号の「さびつらら」は化学反応ではなくバクテリアによって形成されていることを発見した。

 マン博士は4年間にわたりタイタニック号を侵食するバクテリアについて研究し、これまでに数十種類のバクテリアを特定し、うち1種は新種だったことを突き止め、「ハロモナス・ティタニカエ(Halomonas titanicae)」と名付けた。これらのバクテリアは船体の鉄を少しずつさびに変え、時には人間の背の高さほどにもなるさびつららを形成し続けているという。

 1.6マイクロメートルと極小で、肉眼では確認することのできないこれらのバクテリアは、数十年の間におびただしい数に増殖した。「タイタニック号は5万トンの鋼鉄の塊。バクテリアの餌は豊富にある」(マン博士)

 生鉄(なまがね)で作られた窓枠や階段、門、さらには鋳鉄(ちゅうてつ)製の炉もバクテリアにとってはごちそうのようだが、その一方で真ちゅう製の部分は無傷のままだという。

 博士は「バクテリアによる侵食の速度は分からない」としながらも、過去と最新の船体の写真を比較した結果、急速な変化が起きていることは間違いないとした。博士の推測では、「20~30年後には、船体はさびの塊になるかもしれない」という。

 マン博士は、タイタニック号が分解してしまうことは遺産の大きな損失を意味すると語る。だが博士の発見で良いことも1つ分かった。それは、これまでに海の底に沈んだ船や石油掘削機、そして貨物などが単にごみの山として残るのではなく、時間の経過と共にバクテリアが全てを分解してくれるということだ。(c)AFP