【1月19日 AFP】秋に起こった嵐のため、例年冬を前に行われる燃料補給を受けられなかった米アラスカ(Alaska)州の沿岸都市ノーム(Nome)に、ロシアのタンカーが凍結したベーリング海(Bering Sea)を480キロも航行して燃料を運ぶという前例のない作業が行われた。

 燃料輸送会社ビタス・マリーン(Vitus Marine)のマーク・スミス(Mark Smith)氏によると、燃料を陸揚げする作業は順調に進んでおり、現地時間の18日夜までには終わる見通しだという。

 綿密に立てられた計画に従って130万ガロンの燃料を積んだロシア・タンカー「レンダ(Renda)」は、米沿岸警備隊(US Coast Guard)の砕氷船「ヒーリー(Healy)」の支援を受けて、人口約3500人のノームの港に14日到着した。

■480キロの氷の海を往復

 真冬に凍った海を480キロも通って燃料を届ける試みは今回が初めて。風や海流により、凍った海の航海ははかどらなかった。

 レンダがノームに接岸した後、米沿岸警備隊のトーマス・オステボ(Thomas Ostebo)准将は「われわれの目標は一人の負傷者も出さず、燃料の流出も起こさず、事故も起こさないこと。レンダが凍った海を出てロシアに戻るまで、作戦は終わらない」と語った。「まだ長い道のりが控えている。安全に注意して任務を完遂したい」

 レンダの周りの海水が再氷結して船の周囲で作業ができるようになるのを待って、作業員たちは1本約120メートルの特殊な極圏仕様ホースをつなぎ合わせ、レンダから約420メートル先の陸上にある燃料貯蔵タンクへと伸ばした。

 ホースは氷の突起部分に接触しないよう、そうした箇所では渡らせたほか、レンダが動いても足りなくならないよう、少したるみをつけて伸ばされた。若干の漏出があった場合に備えて、ホースの継ぎ目の下には吸収パッドを敷いた。

 ビーチに積もる雪の中を進む通路も確保された。ホースが通る道には赤色の杭が設置され、立ち入りが禁止された。桟橋には住民がこの光景を眺めるための絶好のポイントも設けられた。

 燃料をタンクに移す作業が始まったのは16日夜。給油スピードは最大で1時間当たり3万ガロン。その間、ヒーリーは作業現場から約820メートル離れて待機した。アラスカ西部に広がるベーリング海のノートン湾(Norton Sound)に面したノームの海岸からは、約1.6キロの位置だった。

■「米国にはもっと砕氷船が必要」アラスカ州副知事

 米国では1920年に制定された法律によって、通常は米国船籍以外の船にこうした運搬は認められないが、今回は特例が設けられた。

 レンダと燃料輸送契約を結んだ会社、シナスアク・ネーティブ(Sitnasuak Native)のジェーソン・エバンス(Jason Evans)会長は、空輸での燃料輸送は高くつくため無理だったと語る。「町には競合企業があるので、現在の燃料費、1ガロン(約3.8リットル)あたり5ドル50セント(約420円)に、空輸コストを上乗せすることは単に不可能だった。それに空輸だと、現在の燃料使用量を維持するためには、1日4便飛ばす必要がある」と述べた。

 このところのアラスカの寒さは、住民にとってさえ厳しいものになっている。当局によると、2隻の船上の気温はマイナス50度にまで下がった。

 アラスカ州のミード・トレッドウェル(Mead Treadwell)副知事は、北極海での海運が増えている中、米沿岸警備隊がこの海域で任務をこなせるよう、米国にはもっと砕氷船が必要だと述べた。(c)AFP/Sandra Medearis