【12月28日 AFP】欧州連合(EU)の単一通貨ユーロ発足から10年。EU加盟国でありながらユーロ導入を選ばず、自国通貨ポンドを手放さずにきた英国のユーロ嫌悪は、欧州債務危機でユーロの存続さえ危ぶまれる中、ここへ来てことさら露骨になっている。

 今月のEU首脳会議で英国のデービッド・キャメロン(David Cameron)首相は、欧州債務危機打開に向けた基本条約改正に拒否権を行使した。直後の世論調査によると、英国民の65%がユーロは崩壊する運命にあると考え、存続すると考える回答者はわずか5人に1人だった。

 英日曜紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)は「状況は良くない、だがユーロ圏の外にいられたのがせめてもの救い(It's bad, but at least we're outside the eurozone)」という見出しを掲げ、欧州構想やユーロを嫌う人びとが「あちこちのパブで、自分は正しかったのだと大威張りできる」と書きたてた。

■対岸の火事ではない危機

 しかし、ユーロに対する敵がい心をあらわにしつつも、ユーロを導入しないという選択肢から英国が具体的に得た恩恵は限られている。ユーロ圏が危機にあえぐ一方で、英国経済とて苦境にあるのだ。 

 欧州委員会(European Commission)によると、2011年の英国は厳しい緊縮財政策にもかかわらず財政赤字はギリシャよりも多く、公的債務はフランスとさほど変わらない。失業率は17年ぶりの高さで、インフレ率はユーロ圏の2倍だ。

 何よりも英国は、金融セクターが大打撃を受けた2008年金融危機のつけをいまだに払っている。この欧州一の金融セクターを守ることこそが、キャメロン首相がEU条約改正を断固、拒否した理由だ。EUの規制でシティー(ロンドンの金融街)に足かせがはめられることを恐れたからだ。

 しかし、ユーロ圏諸国に比べて英国には明白な強みがある。自律的な中央銀行の存在だ。この3年間、欧州中央銀行(European Central BankECB)とは対照的に、イングランド銀行(Bank of EnglandBoE)は2750億ポンド(約33兆5000億円)相当の資産買い入れ枠で、英国債を大量に買い支えてきた。その結果、英国の10年物国債の利回りは現在ドイツにほぼ近い。つまり英国はユーロ圏諸国の大半よりも好条件で借り入れができることを意味する。

 他方でBoEによる流動性供給はポンド安進行の一因ともなった。2000年5月の1ポンド=1.75ユーロから最近は1.15ユーロ前後まで落ち込んでいる。ポンド安は輸出に有利だが、英国はいまだ輸出よりも輸入が上回っている。さらに0.5%に据え置かれている政策金利のせいで外国の投資家が寄りつかず、ユーロ危機の隙をついた立ち回りはできていない。

■英国のユーロ未導入は、ユーロ圏諸国にとって幸運?

 為替取引を扱うCity Indexのアナリスト、ジョシュア・レイモンド氏は「ユーロを導入していたら、英国の状況はずっと悪かっただろう」と語る。通貨統合による貿易拡大のようなポジティブな側面があったとしても、債務危機に直接引きずり込まれる悪影響によって無効になっていただろうと言う。

 英プライベート・エクイティー・ベンチャー・キャピタル協会(BVCA)のコリン・エリス(Colin Ellis)氏もまた、ユーロを導入していたらイングランド銀行はそれに阻まれて「これだけ大量の英国債を買い上げることはできなかったはず」だと指摘する。

 シュナイダー・フォーリン・エクスチェンジ(Schneider Foreign Exchange)のスティーブン・ギャロ(Stephen Gallo)氏はさらに、英国のユーロ未導入に不平を言っているEU加盟国は、英国がユーロ圏の一員だったら今よりもどれほどひどい状況だったかを考えるべきだと言う。「もしもユーロ導入国になっていたら、英国は今ごろ救済を必要としていたにちがいない」(c)AFP/Philippe Valat