【10月19日 AFP】30歳のサラリーマン、コバヤシ・タカヒサさんが、若い魅力的な女性にひざまくらをしてもらうとき、彼は母親のことを思い出すという。

 太ももを覆った浴衣が、畳の上に横になったコバヤシさんの顔に触れる。コバヤシさんは少しの間、女性のきれいに化粧された目をのぞき込む。

 床の間に配された古い飾り傘が、東京の路上をこうこうと照らすネオンサインの記憶を和らげ、あまねさん(24)がやさしく語りかける。

 それからあまねさんは、竹の耳かきを使って、コバヤシさんの耳かきを始める。

 都内でコンサルト会社を経営するコバヤシさんは、リラックスするためにこの店を訪れると語る。耳かきは、子ども時代の思い出につながるものだという。

 コバヤシさんは、子どものころに母親にひざまくらをされて、やさしく耳かきをされていたときのことを思い返す。コバヤシさんの妻はときどき耳かきをしてくれるものの、和風の畳の部屋でする耳かきはまた違うのだという。

■大半はサービスの上限を心得た男性客

 山本耳かき店の秋葉原総本店には、毎日150人ほどの客が訪れる。大半は男性だ。

 秋葉原店は、同チェーンの11店舗のうちの1つ。16室あり、予約でいっぱいになっていることも多い。料金は30分で2700円だ。

 浴衣姿のあまねさんは、顧客が訪れるとまず緑茶をふるまう。

 それからやさしくひざに頭を乗せ、顧客と会話をしながら、ちょうどよい耳かきを選ぶ。

 あまねさんによると、顧客は癒される、快適だ、と語るという。中には深く眠ってしまい、いびきをかく人もいる。

 あまねさんは、マッサージの仕事もしている。最初は耳かき店を顧客として訪れたという。男性がほとんどの客層では、めずらしい女性の顧客だった。

 同店マネージャーのタカハシ・サトルさんは、女性客は5%ほどで男性客が多いものの、店を訪れる男性客はサービスの上限を心得ていると述べる。

 耳かきの後には、残ったかすを払うために女性スタッフは客の耳に息を吹きかける。タカハシさんによると、男性客の多くが、息をたくさん吹きかけてほしいと要望するという。

 耳かき店は性的なサービスを提供するところではなく、女性を傷つけるような行為があったときはただちに耳かきを中止するとの注意書きが、同店で提供されるサービスの境界をはっきりと示している。

 だが、女性たちはウェブサイトで紹介され、ブログも定期的に写真付きで更新されることから、好みの女性スタッフを目当てで訪れる顧客もいるだろうことは、店側も知っている。

 耳かき店は、6年前に医療訓練のない人でもサービス提供できるように規制緩和されてから、日本で人気となった。

 全国の大都市に耳かきの店舗ができた。山本耳かき店では、文字通りの耳かきサービスを提供しているが、中にはメイド姿の女性が何時間もかけて耳かきをするなど、より魅惑的なサービスを提供するチェーンもある。

■無垢さと性的サービスとの間にある耳かき業界

 ホステスが恥ずかしそうに顧客に飲み物などを提供し、顧客のジョークに好意的な笑顔を向けるバーや、あるいは、床が鏡になっていて、ウエートレスが下着を着用していない様子を眺めることだけできる喫茶店などと同様に、耳かき店は、日本における無垢さを売りにしたサービスと性的サービスとの間のグレーゾーンにある。

 男性たちが女性たちの同席と奉仕に対価を支払ういわゆる「浮世」は、芸者文化にその源流がある。舞踊や演奏、それに会話の技術に長けた女性は、非常に高く評価されて多額の対価をもらうことができる。

 業界の中でもトップクラスの女性たちは、高額を稼ぐことができるだけでなく、周囲からの尊敬や保護を受けることができる。

 一方で、「浮世」の一番底はもっと暗い場所でありうる。常連客だった人が、危険な強迫観念にとりつかれた人に変わることもある。

 2年前、耳かき業界に激震が走った。江尻美保さん(21)が祖母とともに、交際を断った顧客の男に刺されて死亡する事件があった。

 あまねさんにとって、耳かき店での仕事は、くつろぎの時間を提供するものであり、危険を感じることはないという。

 あまねさんは自分のサービスに性的なものが含まれているとはまったく考えていない。彼女にとって耳かきは、くつろぎを提供し、人の生活をよりよくするものなのだ。

 顧客は癒さるために店に来る、とあまねさんは語った。(c)AFP/Yuka Ito