【10月10日 AFP】サルの脳に電極を埋め込み、このサルに「仮想アーム(腕)」でコンピューター内にある仮想の物体を動かさせたり、その質感を触覚させることに成功したとの研究結果が、5日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。研究が進めば、いずれは重度のまひがある人たちも、物に触れる世界を再び取り戻すことができるかもしれない。

 神経生物学を専門とする米デューク大学(Duke University)のミゲル・ニコレリス(Miguel Nicolelis)教授率いる研究チームは、2匹のアカゲザルを用い、脳の両半球に複数の電極を埋め込んで実験を行った。

 実験でサルたちは、コンピューター画面上に表示された3つの物体に触ろうと、脳の力だけで「仮想アーム」を操作した。

 物体の1つには「表面」に触れた感覚をもたらす「触覚フィードバック」が備わっている。その物体に触れるとサルたちにはフルーツジュースが与えられるが、他の物体を持つと最初からやり直しをさせられる仕組みになっている。

 その結果、1匹のサルは4回目で、もう一方のサルも9回目で正しい物体の選択方法に気づいた。脳活動のスキャンは、サルたちは物体を実際に触覚して選び、無作為に選んでいるのではないことを示していた。

■操作しながら触覚も

 脳にコンピューターを接続して機械を操作することで、まひのある人びとが再び物体を動せるよう目指す研究は、まだ実験室内の研究段階だ。

 だが、今回の実験は、その取り組みに重要な側面を付け加えた。研究チームは、従来の「脳-機械」間インターフェースから、いまや「脳-機械-脳」インターフェース(BMBI)への可能性が高まったと説明する。

 実験では、サルの脳の一次運動野にある約50~200個の細胞が「仮想アーム」を操作。これと同時に、物体の触覚が、一次体性感覚野に埋め込まれた電極を通じて電気的なフィードバックとして届けられていた。

 ニコレリス氏は、この操作と触覚の同時並行こそが画期的なのだと指摘する。「この脳とバーチャルアバター(仮想の体)との相互作用は、サルの肉体からは完全に独立したものだった。サルは本物の腕や手を動かしていないし、物体に触れた感覚を確かめるのにも、自分の皮膚を使っていない」

 また、「これは、新たに感覚経路が創造されたようなものだ。脳は、この新たな感覚経路を通じて、もはや肉体と末梢神経では得ることが不可能となった情報を再び処理できるようになる」と、研究の成果を強調した。ヒト以外の霊長類で、こうした実験に成功したことにも、期待感を高めているという。

■2014年サッカーW杯で実演なるか

 さらにニコレリス氏は、脳で直接、操作できるだけでなく、触覚も得られるロボット外骨格の製造が、近い将来、可能になるかもしれないと期待を示す。

 デューク大の声明によると、国際研究チーム「ウォーク・アゲイン・プロジェクト(Walk Again Project)」は、2014年のサッカーW杯ブラジル大会(2014 World Cup)の開幕戦で、BMBI外骨格によるデモンストレーションの実演計画を提案している。(c)AFP