【9月9日 AFP】大地震の後の巨大な津波を振り返り、ある子は轟音と地響きを聞いたことを書き、別の子は悪臭を放つ黒い波を思い出し、友だちを失った子は津波を「よくばりだな」と言い表した。

 素朴でいじらしく、切ない物語の数々は、子どもたちの手記を集めた文集『つなみ』に収録されている。大震災で痛手を負ったこの国の心の琴線に触れる文集だ。

 子どもたちの言葉は無垢でたどたどしさもあるが、どの話も生々しく真に迫っており、3月11日についてこれまでに書かれたどんなものよりも深く、多くの読者に、あの大震災の恐怖を伝えている。

 文集を企画したジャーナリストの森健(Ken Mori)氏(43)は、2万人近い人びとが犠牲となり、東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故を引き起こした東日本大震災を「子どもの眼を通じて」記録しようと思った。地震の後の暗く凍てつくような数週間、森氏は10市町村の避難所を訪れ、身を寄せていた5~17歳の子どもたち100人に、大災害の記憶について書いてもらえるよう頼んだ。

「子供たちは五感で感じたことを一生懸命思い出そうと努力しました」とAFPの取材に森氏は語った。「文章は拙いですが、読者の方々が生々しさやリアルな感覚を感じてくれていると思っています」

■「その時、初めて、『もう、終わりだ』と思いました」

 3月11日午後2時46分、宮城県沖約130キロを震源に発生した巨大地震。その後に続いた巨大津波は最大40メートルの高さに達し、防波堤も建物も、自動車も、人をも飲み込んだ。

「地鳴りが『ゴォー!』と音を立てながら鳴りました」と書いた武藤ゆい(Yui Muto)さん(11)は、名取市が津波に切り裂かれる直前に学校の屋上に避難した。「私は、その時、初めて、『もう、終わりだ』と思いました」

 廣瀬迅人(Hayato Hirose)君(11)は漁港の街、石巻で学校から家に帰る途中、津波に襲われ、自動車運転学校の建物に逃れた。「まどから見た物は、津波から泳いでひっしににげている人が見えました。でもけっきょくは、おぼれてしまいました」と記す。

「そしてまた、たてつづけに見た物は、車から出れなくて、たすけをもとめている人が見えました──何分かたって、その車はしずんでって、もうしずんだって時に、ギリギリでわかい人がたすけにいって、三人はたすかったけど、一人はさむさで死んでしまいました」。孤立した運転学校の建物から救助された後、壊滅した街で廣瀬君が目にしたのは「たくさんの死たいでした」。

 中村まい(Mai Nakamura)さん(8)は、津波の臭いについて書いている。「つなみの色は黒っぽいつなみでした。くさかったです」

 佐藤春菜(Haruna Sato)さん(7)は、友だちの1人を失った。別の友だちは、何もかも流された街から一家で離れることになり、お別れを言わなければならなかった。さまざまに感じた気持ちを一言「つなみってよくばりだな」と書いた。

■「この作文を書いて心の区切りをつけようと考えました」

 津波による破壊、家族の死、避難所での厳しい生活が描かれている一方で、子どもたちは生きていることの喜びや、救助・救援活動への感謝、未来への希望についても書いている。

 熊谷祥多(Shota Kumagai)君(10)は、気仙沼の避難所に親友が訪ねてきてくれた日のことを書いた。「おもいっきり泣いてくれた。どうしたのときくと、『友達だろ』と言った。 ぼくはうれしくて、うれしくて、たまらなかった。ぼくは、ぼくのために泣いてくれる人こそ、『友だち』だと思った」
 
 人口1万5000人の10分の1が犠牲となった岩手県大槌町の八幡千代(Chiyo Yahata)さん(11)は、行方不明になっている母親について書いた。5月中旬に森氏が訪問した後の作文だ。「お母さんは、まだ見つかりませんが、かならず見つけて、三人で仲良くくらしたいだす」

 森氏によると、千代さんはこの時まで、行方不明になった母親のことについて父親には話したことがなかったのだという。しかし、6月の終わりには千代さんはもう母親の生存の望みをあきらめていた。生き残った父親にもっと気持ちを向けるようになり、森氏に「おとうさんのこと好き」と語った。

 最初は作文を書くことに躊躇したが、自分の心を見つめて乗り越え、書きあげた子もいた。ある中学生の少女は作文と一緒に森氏に渡した手紙で「この作文を書いて心の区切りをつけようと考えました」と書いた。「もう、泣く自分におさらばです。笑顔の先には明日があると信じて生きていきます」

 被災地の子どもの文集『つなみ』は6月下旬に出版されて以来すでに第3版を数え、14万部が市場に出た。森氏のもとへは全国の学校から、授業や読み聞かせの題材としての使用許可を求める問い合わせが舞い込んでいる。読んだ人から英訳の申し出も3件あり、出版元の文芸春秋(Bungeishunju Co)で検討しているという。(c)AFP/Shigemi Sato