【7月13日 AFP】焼け付くような暑さの午後、ワシントンのチャイナタウンに数十人の少女が集まった。彼女たちは思い思いにシルクやサテンのイブニングドレスを試着し、それに合うハンドバッグやアクセサリーを選び、支払いを済ますことなくそのまま会場を出て行った。

 しかし、彼女たちは決して盗みを働いているわけではない。ここは、華やかなドレスを持っていない少女に対し、プロム(卒業記念ダンスパー ティー)用の衣装を無償で提供する場なのだ。主催団体「プロム・ダンス・プロジェクト(Prom Dress Project)」のロビン・フィッシャー(Robin Fisher)は「アメリカでは、プロムはとても重要なイベント。私たちは異なるバックグラウンドを持つ少女たちに、金銭的な無理をせず美しくなって欲しいのです」と語る。

■無償でドレスを提供

 会場内にはドレスやネックレス、イヤリング、クラッチバッグなどが並ぶ。「これらは全て寄付されたアイテムです」とフィッシャー。一日限りの会場さえも、無償で提供されたものだ。細い廊下には試着を待つ少女たちが列を成しているが、そのうち多くは貧困地域から高校に通うアフリカ系アメリカ人だ。

 ワシントン南東部では3分の1以上の人々が貧困の中で生活している。アーバン・インスティチュート(Urban Institute)によると、09年度の同地域の世帯収入は都市全体の半分以下だった。彼らにとって、プロムのためのドレスにお金をかけることは不可能に近い。

 しかし、多くの人は自分の娘に“夢のドレス”を着せ、プロムに送り出すことに意義を見出している。娘とともに会場を訪れ、ピンクのドレスを手にしたクレア・キャンベル(Carla Campbell)は、「もしこのような無償提供イベントが無かったとしても、私はなんとかして娘をプロムに送り出す方法を探し出したでしょう」と語る。 「娘は立派な学生ですし、私もプロムがどれほど重要か理解しています。アメリカ人にとっての成人式ですから」

■プロムのドレスは大きな負担

 ティファニー・コフィールド(Tiffany Cofield)はキラキラ光るクリスタルがウエストに刺繍されたワインレッドのロングドレスと、ぴったりのドロップイヤリングを手に入れた。彼女は昨年 もプロムに出席したが、その際は母親がドレスアップのための費用を支払った。「ドレス、シューズ、ジュエリー、髪のスタイリング。一晩で600ドル(4万8000円)もの出費でした。恵まれた人しかできません」

 今春にプロム用ドレス提供イベントを主催したステファニー・マンズ(Stefanie Manns)は「プロムには、とてもお金がかかり、家族にとって大きな負担になります。この地域に多い母子家庭の場合は、尚更負荷がかかってしまいます」と語る。「中には、600ドルもするドレスもあります。たった一晩着るだけでそんな金額が必要になるのです。このような経済状況では、数多くの家庭がプロムの出費に耐えることができません」

■力を出し合ってでも素敵なドレスを

 ワシントン北西部ジョージタウンのような高所得者が多い街でも、プロム用のドレスに尻込みする家族が少なくない。ギルダ・ミズラヒ(Gilda Mizrahi)が経営するウィスコンシン通りのブティック「シグネチャー(Signature)」では300ドル(約2万4000円)から1000ドル(約8万円)のドレスを販売している。

 母親たちは値札を目にすると驚きの表情を浮かべるが、結局は「祖母や叔母、友人たち」がドレス代を援助してくれるのだという。「みんなで力を出し合ってでも、女の子に素敵なドレスを着せて、プロムに送り出してあげたいものなのです」とミズラヒは語った。(c)AFP

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