【7月2日 AFP】3日に投開票が行われるタイ総選挙で、最大野党タイ貢献党(Puea Thai)の指名によってタイ初の女性首相になる可能性が高いインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)氏(44)は、政治家としては新人だが、一方で彼女が持つ最も大きな財産であるその名字「シナワット」は、タイ政界最大の論争の的でもある。

 インラック候補は、兄タクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相の代理となれる人物と目されている。タクシン氏も、妹は自分の「クローン」だと呼んではばからない。当のインラック候補も2人の考え方が近いことを裏付ける呼び方だと語っている。

 1児の母インラック候補は、遊説中にAFPの取材に応じ、「私たちは似ている。私は兄からビジネスについて学び、兄のビジョンを理解している。それに兄がどのように問題を解決し、一からあらゆるものを作り出す兄の方法も理解している」と語った。

 2006年にクーデターで追放されたタクシン元首相は禁錮刑を逃れるために現在は国外にいるが、今でもタイ貢献党の事実上の指導者とみなされている。タクシン元首相はそのポピュリスト的な政策によって地方部や労働者などに支持者が多いが、バンコク(Bangkok)のエリート層からは腐敗した独裁者、王制への脅威とみなされ嫌われている。

 インラック候補は遊説先で人びとにこのように演説を語り始める。「あなたがどれほどタクシンを愛してるか、私にはわかりません。ですが、あなたのその愛を、どうか末妹である私にも、少しだけ分けてもらえませんか?」

 ライバルのアピシット・ウェチャチワ(Abhisit Vejjajiva)首相とは対照的に、インラック氏は対立候補を非難する選挙戦術を避けてきた。代わりに、所属するタイ貢献党(Puea Thai)の政策に焦点を絞り、タクシン派と反タクシン派の数年に及ぶ対立を解消し、国民の和解が必要だと呼びかけている。

 インラック氏は1967年6月21日生まれ。北部チェンマイ(Chiang Mai)県で中華系の有力一族であるシナワット家に、9人目の末の子どもとして誕生した。

 チェンマイ大学(Chiang Mai University)の政治科学部を卒業後、米ケンタッキー州立大学(entucky State University)で行政学修士号を取得。1990年代にタイに戻ってからは、一族の企業に研修生として就職し、その後、兄タクシン氏の「企業帝国」を渡り歩いてさまざまなポジションを歴任した。

 インラック候補は、タクシン氏が創立した携帯電話大手シン・コープ(Shin Corp)の元社長でもあった。同社は、2006年に起きたタクシン氏の株式売却にまつわる脱税スキャンダルの中心となった会社だ。

 インラック氏のビジネス面での活躍はよく知られているが、政治面でどのような指導者ぶりを発揮するのかは未知数だ。在バンコクの西洋外交官は、「インラック氏は現在はタクシン氏が詳細に決めた要望に従っている。インラック氏が何ができるのかはまだわからない」と語った。(c)AFP