【5月31日 AFP】イタリアのスローフード運動に加われば、毒々しいとげに覆われていたり、目の飛び出した不気味な魚に出会うことになるかもしれない――だが、カサゴやダツといった魚は見た目は悪いかもしれないけれど、安価で、持続可能で、そして何より味が良い。

 イタリアで開かれたイベント「スローフィッシュ」で、漁師のロベルト・モッジア(Roberto Moggia)さんは「『安っぽい』魚に戻るべきときが来たんだ。おばあちゃんが昔食べていたような魚にね。安くてうまいだけでなく、他の魚の絶滅を救うことにもなる」と語った。

■スローフィッシュで海洋環境を守れ

 大規模な漁業に脅かされているモッジアさんら小規模の漁師たちは、イタリア・ジェノバ(Genoa)で4日間のイベントを開催している。マグロやサケばかりにくぎ付けになっている消費者たちに、普段は食べ逃しているさまざまな「奇妙な」魚の味を試してもらおうという企画だ。

 イベントでは、クロマグロやメカジキ、ウナギなど、絶滅の危険性が高まりつつある種の代わりに、光沢があったり、とげがあったり、平たかったり膨らんでいたりと、さまざまな色や形の魚を展示したり、刺身や塩漬け、酢漬けなどで提供している。

「マグロとサケの代わりは、レールフィッシュとアジだ。味の違いが本当に分かる人なんていないよ」と、料理学校生のニコラ・ファティベニ(Nicola Fattibeni)さんは語る。ファティベニさんはイベントで、日本の料理人と一緒に、すしコーナーを担当した。「実はスローフィッシュは、危機にある魚を救うことだけが目的じゃない。もう1つの絶滅危ぐ種、『地元の漁師さん』を救うことも考えているんだ」

 小規模漁師は、海洋環境の保護に寄与していることで知られている。だが、大量に魚を水揚げする営利最優先のトロール漁船を前に、小規模な漁師たちは減少する一方だ。しかもトロール漁は、大量に水揚げしたその魚をまた大量に廃棄することさえある。

 欧州委員会(European Commission)のマリア・ダマナキ(Maria Damanaki)委員(漁業・海洋担当)はイベント開幕の演説で「食生活を変えることもできるかもしれないが、漁をする方法は絶対に変えなければならない」と語った。

■魚には汚染問題も

 すしコーナーを担当したファティベニさんら学生たちは、マグロなどで見られるもうひとつの問題として、汚染を挙げる。「たとえばシャケ。脂肪分が多く、特に大西洋やアジアでは、船舶からの廃棄物などの有毒物質を吸収しやすい。それにマグロは、汚染された小魚をたくさん食べるので、有毒物質をもっと蓄積していく」(ニコラ・ファティベニさん)

 イベントでは、魚を購入する際のチェックポイントなどを教える買い物ツアーも開催された。

■料理人も使命感

 イタリアのシェフ、Gianluca Cazzinさん(44)は、「うちのレストランではもうマグロを使ってない。地元のものや伝統レシピで料理しているよ。お気に入りの1つは、1300年代からあるミシマオコゼ科の魚を使ったベネチア流料理さ」と述べ、イベント来場者らに、地元レストランが食生活に大きな役割を担っていると語りかけていた。

 Cazzinさんは、「マグロやメカジキばかりを食べ続けることはできない」と語る。人気のない魚は味も良いわりに値段が安いが、「これらの『安っぽい』魚を、『うまい』魚料理に変えるのがおれたちの腕の見せ所」と述べた。

 Cazzinさんは「次世代に種を保存しなければならない。マグロを10年食べなくても、誰も餓死はしないんだから」と述べ、「20年後に、子どもたちがマグロの泳ぐ姿をまだ見れるようであってほしいと思う」と語った。(c)AFP/Ella Ide