【5月24日 AFP】ミャンマーのティーダ・ウィン(Thida Win)さん(33)は、ヤンゴン(Yangon)の路上で売春をしてエイズウイルス(HIV)に感染した。ウィンさんが頼ったのは、崩壊した国の保健行政ではなく、仲間のセックスワーカー(性労働者)だった。

 ほぼ性産業の関係者たちだけで運営されている「トップ(Top)」プロジェクトが、ウィンさんに治療を提供し、売春以外の仕事をあっせんした。

「今はコミュニティーのヘルスワーカーなの。自分がHIV陽性だということを忘れていられる。携わってるプログラムをとても誇りに思ってる。一生続けるつもりよ」と、ウィンさんはAFPの取材に語った。

「(HIV感染を)診断されたとき、わたしは妊娠してた。でも赤ちゃんにとって安全な方法を教えてもらって、赤ちゃんはHIVに感染しなかった。だからとてもうれしい」と、ウィンさんは語る。

 ミャンマーのセックスワーカーは推計6万人。2008年時点で、そのうち5人に1人がHIVに感染していた。

 トッププロジェクトの治療施設では、HIV検査からカウンセリング、それに治療まで、全てを提供している。前年は女性セックスワーカー1万1770人と、男性1万727人に治療やカウンセリングを実施した。トッププロジェクトで実施したHIV検査は、ミャンマー国内で行われた検査全体のうち女性で40%、男性で82%を占めるほどだ。

 トッププロジェクトには現在350人のスタッフがいる。うち95%は、セックスワーカーコミュニティーの出身者や男性同性愛者たちだ。19の町や市で活動をしている。

■保健予算は0.9%、軍事費は20%

 トップや同様のプロジェクトは、ミャンマーでは非常に重要な役割を果たしている。軍部による支配の続くミャンマーでは、2007年以降、国家予算のわずか0.9%しか保健関連に使われていない。HIV治療は、もっぱら外国からの寄付によって行われてきた。

 また、移動労働者が多いことや、教育水準が低いことなどもあり、ミャンマーはアジアで最悪のHIV感染地帯の1つとなっている。

 2010年11月の総選挙で新政府が樹立されたことを受けて、外国からの寄付が増えることが期待されているが、新政府に期待する人はいない。新政府はことしの国家予算の20%を軍事費に使う予定だという。

 国連は2009年、ミャンマー国民の24万人がHIVに感染していると報告した。改善はみられたものの、感染者率はタイとパプアニューギニアに続いて3番目に高く、今も憂慮すべき状況が続いている。

 前年8月の国連報告書で主な感染経路として挙げられたのは、男性同性愛者による性行為と、「セックスワーカーと顧客との間の高リスクな性交渉」だった。

 また、2007年の米国の推計によれば、ミャンマーでは、人口の3分の1が貧困線以下の生活を送っている。貧困がセックスワーカーを増やす状況も、まだ変わってないといえる。(c)AFP/Alex Delamare