【4月8日 AFP】東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故が、世界規模のエネルギー論争を巻き起こしている。脱原発派が勢いづく一方、推進派は原発にも未来はあると主張する。

■CO2削減の切り札、立場一転

 再生可能なクリーンエネルギーを求める国々にとって原発は、3月11日に東日本大震災が発生し福島第1原発が被災するまで、代替エネルギー候補の最優等生だった。発電時に二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しない原発は、地球温暖化防止対策の切り札とみなされてきたのだ。

 現在、原子力発電は、全世界の電力供給量の約14%を担う。

 だが、炉心の冷却に苦闘する福島第1原発をめぐる日々の報道に、各国では日本産の食品・製品の安全性への懸念が広がり、これまで漠然と抱いてきた原発への恐れが強まっている。

「福島原発の事故によって、アジア各国のエネルギー政策は大々的に転換せざるを得ないのではないだろうか。原発への依存度を削減し、液化天然ガス(LNG)や、太陽・風力・地熱などの再生可能エネルギーの割合が増えるだろう」と、シンガポールを拠点とする市場調査・分析会社IHSグローバルインサイト(IHS Global Insight)のアジア太平洋地域担当主席エコノミスト、ラジブ・ビスワス(Rajiv Biswas)氏は予測する。

 特に、政府が原発建設を推進してきた民主主義国家では「国民が再考を迫ることになるだろう」という。

■再生可能エネルギー株急上昇中

 世界原子力協会(World Nuclear Association)によると現在、世界30か国で440基以上の原発が稼動中で、計37万7000メガワットの電力を供給している。また、建設中の原発62基のうち40基と、建設が計画されている158基のうち96基が、アジア圏にある。

 脱原発を掲げる世界自然保護基金(World Wildlife FundWWF)で気候変動・代替エネルギー問題を担当するサマンサ・スミス(Samantha Smith)氏は、福島の原発事故によって「原発に代わるエネルギーへの支持が復活した」と話す。

 風向きが変わった例としてスミス氏は、欧州連合(EU)が域内の原発全てについて安全性テストの実施を決定したことや、ドイツが旧型原発の稼動の一時停止を決めたこと、中国が原子力発電目標を引き下げたことなどを指摘。

 また、原発に関連・投資している企業・団体の株が下落する一方で、再生可能エネルギー関連株は上昇しているとして、「人間にも環境にも有害で金融リスクをもたらす原発に比べて、クリーンな再生可能エネルギーへの投資が、より好ましいことは明らかだ」と述べた。

■脱原発で電気代が上がる?揺らぐエネルギー安保

 こうした考えに真っ向から異論を唱えるのが、国際エネルギー機関(International Energy AgencyIEA)のファティ・ビロル(Fatih Birol)主席エコノミストだ。世界規模で原子力発電の成長が鈍化すれば、かえって地球温暖化防止の取り組みを深刻に阻害すると警告する。

 IEAは2035年までに世界の原子力発電容量が現在より360ギガワット増加するとの見通しを示していたが、福島原発の事故発生後、原発推進の流れに歯止めがかかるとして見通しを当初の半分の180ギガワット増に下方修正した。

 ビロル氏が明らかにしたIEAの試算によると、石炭、LNG、再生可能エネルギーなどが原発に取って代わった場合、CO2排出量が5億トン増えるという。また、電気料金の引き上げも避けられず、世界のエネルギー安全保障に影響をおよぼす恐れがあるという。

 世界原子力協会(World Nuclear AssociationWNA)のイアン・ホアレイシー(Ian Hore-Lacy)氏は、世界は依然として拡大の一途をたどるエネルギー需要を満たすエネルギー源を必要としており、福島第1原発をめぐるパニックが沈静化すれば、再び原子力が選択肢として浮上するとの見方を示した。(c)AFP/Martin Abbugao

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