【2月5日 AFP】旧暦の正月「春節」の3日、アジアの多くの地域で「卯(ウサギ)年」の訪れが盛大に祝われる中、「ネコ年」を迎えた国がある。――中国のお隣り、ベトナムだ。

 一般的な中国由来の十二支の動物は、ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、龍(辰)、ヘビ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、ブタ(イノシシ)だが、ベトナムではウシが水牛に、ウサギがネコに取って代わる。

 この交代劇が起きた由来についてはっきりしたことは不明だが、十二支の選抜をめぐる説話も、ベトナム版では動物を集めるのはお釈迦様ではなく、道教の事実上の最高神「玉皇大帝(玉帝)」となっていて、中国版とは異なる。

 この説話の差異に交代劇のルーツを見る学者もいる。ただ、パリ(Paris)の高等研究実習院(Ecole Pratique des Hautes Etudes)でベトナム史を専門に研究するフィリップ・パパン(Philippe Papin)氏によれば、最も有力なのは、言語学に基づく説だ。

「中国語でウサギは『mao』と発音するが、この音はベトナム語の『meo』に似ている。『meo』はネコのことだ」

 もっとも、理由はどうあれ、現代ベトナム人たちは中国と十二支が異なることなど何とも思っていない。それどころか「ベトナム人にとって、中国とちょっと違う、ということは国民的な名誉だ」と、タイ・バンコク(Bangkok)にある現代東南アジア研究所(IRASEC)のベノワ・ド・トレグロデ(Benoit de Treglode)氏は説明する。

 ベトナムと中国は同じ共産主義国家で、言語や文化・慣習も中国の影響を色濃く受けている。だが、かつて1000年にわたって中国の支配を受けた歴史や、1979年の中越戦争の記憶から、多くのベトナム国民は中国に対して複雑な感情を抱いており、一線を画すことに強いこだわりを持っている。

 首都ハノイ(Hanoi)で活動するフリージャーナリストのダオ・タン・フエン(Dao Thanh Huyen)氏も言う。「どうやって12種類の動物が選ばれたのか、正確なところはわからないが、現代ベトナムでは『中国』とか『中国語』という言葉はもめ事の種になる。真剣にとらえすぎるのはばからしいけれど、ほとんどのベトナム人は中国と同じではないことに喜びを感じる」

 とはいえ、引退したベトナム人俳優のフォン・ファット・トリウ(Hoang Phat Trieu、76)氏によれば、単にベトナム人はウサギよりネコが好き、という理由もあるようだ。「ベトナム人の多くは農業を営んでいる。農家にとってウサギは何の益にもならないが、農作物を食い散らかすネズミを退治してくれるネコは、農民たちのとても良い友達なんだ」

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