【1月10日 AFP】好きな音楽を聴くと良い気分になるのは、脳内で快感伝達物質ドーパミンが大量に分泌されているためだということを、カナダ・マギル大学(McGill University)の研究チームが突き止めた。

 米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」(電子版)に掲載された論文によると、マギル大の研究チームは「音楽を聴くと背筋がゾクッとするような興奮を感じる人」との条件で、研究の被験者を募集。応募者217人の中から19~24歳の8人を選び、PET(放射断層撮影法)による画像診断によって、ドーパミン受容体となる化学物質ラクロプライドの量を調べた。被験者の心拍数、呼吸、体温、精神性の発汗の目安となる皮膚コンダクタンスなども測定した。

 その結果、好きな音楽を聴いてワクワクしているとき、被験者の身体活動は活発化し、脳内の線条体からドーパミンが分泌されることが分かった。この反応は、好きな音楽を聴く前の期待感だけでも起こることも確認された。

 一方、聴いても気分が盛り上がらない特に好きではない音楽を聴いた場合には、ドーパミンの分泌の活性化は見られなかった。

 研究チームはさらに、脳内のどの部分が活性化するかを調べるため、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による検査を実施し、被験者の脳の血流量変化を調べた。すると、好きな音楽を聴くことを期待している段階では、脳の「尾状核」と呼ばれる部分が活性化することが分かった。ところが、実際に音楽を聴いて興奮状態となると、今度は「側坐核」という部分が活性化した。

 研究チームは、こうした結果が音楽に関心を持つヒト特有の性質を解明する手がかりになると期待を示している。

■生存本能に関わる脳内物質、なぜ音楽で活性化?

 ドーパミンは、おいしいものを食べたり、金銭など好ましい「二次報酬」を得たりした際に分泌される脳内物質。向精神薬の処方でも分泌され、ヒトの生存本能と深い関係があると考えられている。

 音楽があらゆる社会で好まれ、個人の楽しみや文化として受け入れられている事実は、この「報酬」理論で説明できる。しかし、音楽は抽象的なもので、必ずしも生存に不可欠ではなく、また「二次報酬」的なものでもない。

 この点について研究チームは、「抽象的な刺激は文化や世代を超えて続き、たいていの人の生活の中で重要な位置を占めている。特に、抽象的な刺激に対する楽しい記憶は文化や個人の好みによりけりだ」とし、考えられる理由として、音楽によって喚起される「高揚感」「緊張」「予感」「驚き」「期待」などの感情が関与している可能性を挙げている。(c)AFP