【1月10日 AFP】香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の学生や研究者たちが、大腸菌に大量のデータを保存する技術の研究に取り組んでいる。

 同大学で学生を指導する厳基元(Aldine Yam)氏は「大量のデータを長期間にわたって冷蔵庫内のバクテリアに保存できる可能性があります」と語る。同氏は2010年、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)で毎年行われる合成生物学の大会「iGEM」で金メダルを獲得している。

■細胞に情報を記録する「バイオストレージ」技術

 バイオストレージ(生物保存)は生きている生物に、暗号化した情報を保存する技術。約10年前に誕生した比較的新しい研究分野だ。2007年、慶応大学(Keio University)の研究チームがアインシュタインの相対性理論の方程式にちなんで「E=MC2」というデータを枯草菌に保存することに成功し、世代を経ていくバクテリアを使って特定の情報を数千年にわたって保存できる可能性があると指摘した。

 香港中文大学の研究チームはより複雑なデータを細胞に保存する方法を開発する一方、応用に向けた課題の克服にも取り組んでいる。

■膨大な記憶容量、ハッキングにも強い

 チームはデータを圧縮・分割して複数のバクテリアの細胞に保存する方法を開発し、記憶容量の問題解決に向けた成果を挙げた。また、保存した情報の検索を容易にするDNAのマッピングにも成功した。これにより、テキストだけでなく、画像、音楽、動画などもバクテリアの細胞内に保存できる可能性が出てきた。バクテリアは極めて小さいため、1グラムのバクテリア内に2000ギガバイトのハードディスク450個分の情報が保存できるという。

 別の学生指導員はバイオストレージの有用性について、「バクテリアはハッキングされません。どんなコンピューターでも電気系統の故障やデータを盗まれる恐れがありますが、バクテリアはサイバー攻撃とは無縁です」と説明する。

 研究チームは、一部のバクテリアの細胞に突然変異が起きても全体としてのデータが壊れないようにする情報保存方法についても検討を始めており、この研究分野の名称として「バイオ暗号学(biocryptography)」という用語も考え出した。

■実用化は相当先

 学生チームを指導した陳廷峰(Chan Ting Fung)教授は、現在の研究は基本的な段階だが、将来的には遺伝子組み換え(GM)作物の遺伝子に、知的財産権関連の情報やGM作物の開発履歴といった付加的な情報を記録できるようになるかもしれないと指摘する。

 家庭用コンピューターに「微生物メモリー」が搭載される日が来るのだろうか。上述の厳基元氏は、将来的にその可能性はなくはないが、現在は細胞の操作を専門家が実験室内で行う必要がある基礎研究の段階のため、実用化は相当先だと話している。(c)AFP/Judith Evans