【1月9日 AFP】おもちゃの名前を1000個以上も覚え、区別できる犬に関する研究報告が前週、行動学の専門誌Behavioural Processesに発表された。

 知能が高く、働き者として知られる牧羊犬、ボーダーコリーの「チェーサー(Chaser)」(6歳半)は、3年間のトレーニングで、調教師でさえも名前を書かないと覚えられない1022個ものおもちゃの名前を覚えた上、言語の使われ方もかなり理解しているという。

 研究を発表した米ウォフォード大学(Wofford College)の心理学者、アリストン・リード(Alliston Reid)氏によると、チェーサーはもっと多くの言葉を覚える能力があるとみられるが、時間的な制約からトレーニングは1022語で中止された。

■1022個のおもちゃを名前で区別

 実はチェーサーの前にもたくさんの単語を覚えた犬はいる。2004年にドイツの研究チームが、約200語を把握した犬「リコ(Rico)」に関する報告を米科学誌サイエンス(Science)に発表した。しかし、覚えた単語の数でチェーサーはリコをはるかにしのいでいる。

 リコの研究を知ったリード氏と共同研究者のジョン・ピリー(John Pilley)氏は、犬の学習能力の上限に興味をもった。その頃、ピリー氏の元にペットとしてやって来た生後5か月のボーダーコリーがチェーサーだった。

 ピリー氏は犬の調教師でもあったため早速、チェーサーに単語を教え込む本格的なトレーニングを開始した。2人の心理学者たちは中古品店へ行き、ぬいぐるみやボール、フリスビー、子ども用の玩具などを山のように買い込み、そのひとつひとつについてチェーサーに教える名称を決めて、マジックで書き込んだ。

 餌などのご褒美は一切与えずに、1日4~5時間のトレーニングを3年間続けたところ、チェーサーはおもちゃをすべて名前で識別し、山と積まれたものの中から選び出せるようになった。

■犬は文を理解できるか?

 さらにチェーサーは、特定のボールやフリスビーを識別するだけでなく、おもちゃを種類別に区別することもできた。たとえば単に「ボールを選べ」と言われれば、116個あるボールのどれかを選んだ。

 このことは、リコの研究では必ずしも明らかにされていなかったことを示している。つまりチェーサーは、命令と物の名前を区別して認識し、おもちゃとおもちゃでない物の区別がつくのだった。

 2人は論文で「1000を超える固有名詞を学習し、覚えたということは、人間の受容性言語能力(言葉を聞いて理解する力)に必要とされるものと同じ能力、つまり音声として発せられた名詞を耳で聞いて識別する能力、物体を視覚的に識別する能力、大量の語彙力、それらを覚える記憶能力をチェーサーがもっているという明白な証拠だ」と述べている。

 さらに「チェーサーはある物につけられた名前を、その物が関係する行為とは独立して理解している。リコの研究では『くつ下』と『くつ下を持って来い』という言葉の区別がついていないのではないかという疑問が残ったが、チェーサーの研究でその可能性はすっかり排除された」

 しかし、名前で物を識別させることはこの研究の序の口だとリード氏は言う。「例えば、チェーサーはシンタクス(統語論)、たとえば一文の中での単語の順序による意味の違いも理解するのかどうか知りたい。ひとつの物を別の物の上に置くようにという指示に、いつも正しく反応するかといった実験が必要だろう」(c)AFP/Kerry Sheridan