【12月28日 AFP】ベトナムのファム・タイ・スー(Pham Tai Thu)さんがハノイ(Hanoi)建都1000年を記念して放った1000羽の白いハトは、長い戦争を経験した同国で末永く平和のシンボルであるようにとの願いを込めたものだった。

 しかし式典から2か月後、ハトの大半は捕まえられ、食べられるか毒殺されてしまった、とスーさんは語る。

 何羽生きているのかたずねたところ、スーさんは低いうなり声をあげて「3分の1」と語った。残りのハトも生きのびれないだろうとスーさんは不安だ。

「とても悲しい」と、スーさんは語り、タバコの煙をゆっくりと吸い込んだ。

■ハトを連れて式典へ

 スーさんは蘭の栽培で収入を得ている。鳥を飼うのが昔から好きだった。10月の建都1000年の式典に鳥と一緒に参加してほしいとハノイ市当局から依頼を受け、そのための資金提供も受けた。

「ベトナム各地からいろんな種類の鳥を集めた」という。暮らしているベトナム中部ダナン(Danang)で飼育し、式典のために鳥たちとハノイに向かった。

「わたしはベトナムと世界の平和を願っている」と語るスーさん。ハトたちは、「平和の都市」ハノイの建都1000年式典で放たれた。

■ハトたちに何が起こったか

 現在、ハノイの植物園内の小島にある鳥小屋に姿を見せるハトは10数羽程度だ。

 スーさんは、爪楊枝(つまようじ)で口の中の掃除をしながら、ハトたちの身に起きたことを説明してくれた。「捕まったものもいたよ。家で飼育したかったのかもしれないし、食べたかったのかもしれない」

 スーさん自身もハト泥棒を目撃したし、警察もハト泥棒を捕まえている。

 地元メディアによれば、ハノイ市警は、ハト数百羽を盗んでレストランに売ったとして容疑者6人を逮捕した。ハノイでは通常、白いハトではなく、通常のハトの肉が販売されている。

 また、植物園の池の水を飲んで病気になったハトもいるという。「ハノイ中の池が汚染されてるよ」とスーさんは語る。

■ハトたちの苦境は「戦争のせい」

 スーさんによると生き残ったハトたちも、鳥小屋に戻るのを恐れて、そばの木で避難生活を送っているという。

 スーさんは、誰のせいでもないと語る。悪いのは、ベトナムの悲しい戦争の歴史だと。「ベトナムの人びとはつらい目に遭いすぎた。だから自分たちの振る舞いをただす機会なんて無かった」

 植物園スタッフによると、ハトたちは現在、植物園側ではなく市当局が管理するようになった。

 スーさんは、毎日植物園に戻って、コメやトウモロコシを与え、水を取り替えている。しかし、そろそろベトナム南部のダラット(Dalat)の蘭農場に戻らなければならない時期が来ており、代わりにハトを世話してくれる人を探している。

「最後の1羽、2羽になっても、誰かがえさを与えないと」と、スーさんは語った。(c)AFP/Ian Timberlake