【11月1日 AFP】米国各州では11月2日、中間選挙と共に住民投票が実施される。有権者は、さまざまな問題についての意思決定が求められることとなる。

■全米で約160の住民投票

 全米各州で実施される約160の住民投票は、マリフアナの合法化、減税、愛玩犬のブリーダーへの規制強化、医療保険制度改革、カリフォルニア(California)州の温暖化ガス排出規制法の履行凍結など、多岐にわたる。このうち42件は市民から発議されたものだ。このほかに市や郡レベルのものもある。

 近年の住民投票では、投票率引き上げを狙い、同性婚など激しい議論を呼んだ問題の是非が問われ、これが全国的な政策につながるという流れになっている。これまでと比べると、2日の住民投票にかけられる議案の数は大幅に減っている。

■強い企業マネーのパワー

 超党派団体National Conference on State Legislaturesの住民投票の専門家、ジーニー・ドレイジ・バウザー(Jeannie Drage Bowser)氏によると、1つの問題を住民投票にかけるためには、膨大な資金が必要だという。

 提案数低下の背景には1929年の大恐慌以降、最悪となった昨今の不況が住民投票への資金集めへの打撃となったことがある。

 その一方で、資金集めにはまったく苦労していないスポンサーもある。

 石油業界は、カリフォルニア州の失業率が5.5%以下に下がり、その水準を1年間、維持できるまで、同州の温暖化ガス排出規制を凍結することを目指す運動に、360万ドル(約2億9000万円)を拠出している。

 また、小売大手コストコ(Costco)は酒類の卸売業者2社と共同で、ワシントン(Washington)州で、州営の酒類販売所を閉鎖し、民間の小売業者による酒類販売に道を開く運動に310万ドル(2億5000万円)を費やした。

 飲料水の業界団体も、ワシントン州で瓶詰のミネラルウォーター、ソーダ、キャンディへの課税撤廃を目指す運動に約1700万ドル(約14億円)を投じた。これは、住民投票運動に費やされた額としては最高額で、バウザー氏は「住民投票運動における企業の資金力の強さを物語る一例だ」と語った。

■マリフアナ合法化も住民投票に

 だが、住民投票に向けた運動のすべてが、企業からの資金に頼っているわけではない。

 ミズーリ(Missouri)州では、動物愛護団体Humane Societyが、愛玩犬ブリーダーの規制強化や、いわゆる「パピー・ミル」(「子犬製造工場」の意。劣悪な環境で愛玩犬を繁殖させている場所のこと)」における動物虐待行為を刑罰の対象とする運動に取り組んでいる。

 また、著名投資家のジョージ・ソロス(George Soros)氏は26日、カリフォルニア州のマリフアナ合法化(とマリフアナへの課税)を目指す団体に100万ドル(約8000万円)を寄付した。

 カリフォルニア州は1996年、全米で初めて医療用マリフアナの使用を合法化した。以後14州で、同様の法律が通過している。2日の住民投票結果によっては、アリゾナ(Arizona)州とサウスダコタ(South Dakota)州も、これらの州に仲間入りする可能性がある。このほか、サウスダコタ州では喫煙規制措置の撤回が住民投票にかけられる。

■予算・税金関連が多い住民投票

 住民投票にかけられる議案は、予算や税金に関するものが多い。

 複数の州で、増税や住民負担の強化、不測の事態に備えた引当金の増額、予算案の可決に必要な賛成票数の現行の3分の2から過半数への変更などの是非が住民に問われる。

 また、9つの州で、減税や学校への補助金見直し、犯罪者に対する罰則の厳罰化など、州の歳入に打撃を与えかねない政策についての判断を住民が下す。

 なかでも、最も厳しい内容の住民投票が実施されるのははコロラド(Colorado)州だ。

 納税者が負担していた16億ドル(約1300億円)相当の教育予算を州負担とする州憲法修正案など、一連の減税案が住民投票にかけられる。

 修正案が可決された場合、一世帯あたり年間1360ドル(約10万9000円)の負担軽減になるが、バウザー氏は「推進派の住民たちは、これらの修正案が実現した場合に州がとるべき対応を何も語っていない」と懸念する。

 また、州政府が実施するさまざまな活動の財源となる一般予算は3800万ドル(約31億円)程度しか確保できないとの調査結果も出ている。

 このほかにもコロラド州では、「person(人)」という単語の定義を変更することで、受精の瞬間から人間としての法律上の権利がを発生させ、妊娠中絶を殺人とみなす憲法修正案や、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領の医療保険制度改革の阻止を目指す提案が住民投票にかけられる。

 オバマ大統領の政敵から格好の批判対象とされている医療保険制度改革は、アリゾナ、オクラホマ(Oklahoma)州でも実施阻止を狙った提案が住民投票にかけられる。(c)AFP/Mira Oberman